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パナマじゃなくてアラスカだった

イオリはザフトの軍服に身を包んでいた。緑の一般兵士の軍服は彼女をザフトに埋もれさせた。この混乱の中、わざわざ一般兵を問いただす者はいないだろう。
「回収したお前の機体を見た。あれをナチュラルが扱えるとはな」
「コスモスはまだ動きますか」
「あれはプラントに輸送される。そもそもお前は捕虜だぞ。いらぬ心配だ」
「わたしは評議会にかけられるんですね」
「恐らくな」
「極刑でしょうか」
「それは戦後に軍事法廷で決めることだ」
彼女の輝かしい戦歴をみるかぎり、恐らく極刑は免れないだろう。多くのザフト兵がコスモスによって葬られた。
イオリは僅かにうつむく。傷だらけの頬にまつげの影ができた。感情のない小さな声が震えるように発せられた。聞き取るのがやっとの声だった。
「…死ぬなら戦場で死にたかった」

「わたしは…そのために作られたと言うのに…」

「作られた?」
イオリはイザークの言葉に我に帰った。自分は地球軍の将校、それもブルーコスモス幹部の娘だ。しくじったと思った。自分らしからぬミスだ。しかし彼をごまかすことなどできないと、このコーディネイターの明晰な瞳が語っていた。
「…わたしの機体を見たのでしょう」
「お前…コーディネイターか!」
「ラウ・ル・クルーゼにはバレていたみたいですが」
確かに彼は彼女を重要なカードだと言っていた。イザークはそれを彼女が連合トップの娘だからだと思っていた。
「何故、地球軍の…」
「私たちは、優秀ですからね」
「なるほど、ブルーコスモスのくせにコーディネイターを使っていたとはな」
「わたしだけよ。正規の軍人でコーディネイターはわたしだけ。わかりますか?わたしの役目は戦うことだけ。ナチュラルのふりをして、民衆を煽って、女神と呼ばれ!…この戦争が終われば殺されるの」
「まさか」
「だからわたし、いつ死んでも良かった。でも、守りたいものができたの…アークエンジェル…帰りたい」
辛かったけれど、いままでで一番温かった。アークエンジェルの仲間たちを思い出す。みんな無事だろうか。急にフラガに会いたくなった。
イオリの頬に温かいものが触れた。イザークの指が、優しく涙を拭っていた。
捕虜の女に触れる。
イザークのなかの同胞意識か。まるで傷付いた仲間を慰める獣のような行為だった。

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パナマ後

「イザーク、君にこの方のお世話を頼む。私の客人だ、丁重におもてなしして差し上げてくれ」
「どのような方…なのですか?」
イザークはベッドに横たわる少女を見つめた。黒髪の薄汚れた娘が眠っている。顔が傷だらけだ。額に大きなガーゼが貼られている。
「私の記憶が正しければ、彼女は地球連合軍イオリ・ジン…今は大佐だったかな。MSコスモスのパイロットにして、地球連合の姫君…といったところかな」
「なッ…敵ではありませんか!」
「敵は敵だが、身分というものがある。彼女は重要なカードだ。私は自分の運が恐ろしいよ」
クルーゼのいなくなった部屋で、イザークは傷跡にそっと触れた。もう痛みはない。歪な凹凸が存在した。
何故こんなナチュラルを。
いくら高級士官と言えども兵士は兵士だ。捕虜は捕虜として扱われるべきだとイザークは思っていた。

コスモスのパイロット。苦々しい記憶がよみがえる。ストライクほどの恨みはないが、こんな女に散々苦戦し、さらには命を救われたのか。パナマで浮力を失ったデュエルを運んでくれたのはコスモスだった。あのとき助けてもらえなければ、自分はここにはいない。
「くそッ…」
こんな女に。
イオリはまだ目覚めない。



12時間がたった。パナマ戦の混乱と事態の収集にザフトも地球軍も沈黙を守っている。パイロットであるイザークの仕事は今はなかった。敵軍の将校の目覚めをただ待っていた。
何度も殺してやろうかと思ったが、クルーゼの命令となにより命を救われた事実が彼をどこか冷静にさせた。
「ん…」
「目覚めたか」
「あ…ここは…」
女は一瞬体を強張らせた。イザークの軍服からここが敵陣だと悟ったのだろう。
「イオリ・ジン大佐だな」
「ええ…わたし、捕まったの?」
「捕虜ではないはずだ。お前はラウ・ル・クルーゼ隊長の客人という扱いになっている」
「ラウ・ル・クルーゼ…あなたは?」
「クルーゼ隊イザーク・ジュール…」
「デュエル…?」
「…そうだ」
「良かった…生きてた」
彼女の言葉がイザークのプライドを逆撫でた。ため息のように吐き出された安堵の声にイザークは自分がとてもちっぽけなもののように感じた。
「俺は敵だぞ!なぜ助けた!ナチュラルなんかに救われて…俺が…喜ぶとでも思ったのか!」
「もう、だれも死んでほしくなかった…それだけ」
コスモスの奇怪な戦闘の理由が分かったような気がした。火力やエンジンを壊すだけで決定打にかけるあの戦い方を思い出す。
ラスティ、ミゲル、ニコル…失った戦友たちの顔がよみがえる。
「ならば何故!俺の仲間を殺した!」
「そっちこそ!わたしの仲間を…」
ハッとする。イオリの目には零れんばかりの水滴が溜まっていた。憎しみに染まった目が伏せられると、すぐになにも写さなくなった。涙が感情を流しさったようだ。
この時初めてイザークは気付いた。自分に仲間がいるようにナチュラルにも仲間がいて、死んでほしくないと思っているということを。いままで気付かなかった。見ないようにしてきたのだ。
「す、まない…失言だった」
「ごめんなさい」
「もう少し眠るといい。…救ってくれたこと、感謝している」

29話らへん

「今日、坊主がいってたよ。なんで僕をコーディネイターにしたのって、聞いてしまいそうだってさ」
「…だから、ご両親と会わなかったんだ」
「まぁ…MSに乗ってるんだ。わからんでもないな」
フラガは「人を殺してるんだから」、とは言わなかった。それはみんなが分かっている。
「ふふッ、なんか、懐かしいなぁ…わたしも悩んだ時期があったなぁって」

イオリのその時期には心当たりがあった。初めて士官学校で出合ってから、5年ほどのつきあいだが、隣りで嫌というほど感じて来た。目に光のない、人形のような少女。提督の娘で、天才児という扱いだったがフラガは彼女が自ら打ち明ける前にそれがコーディネイターの能力だと気付いていた。ブルーコスモスのジン提督がなぜ末の娘の遺伝子を操作したのか、それは想像に難くなかった。

「もう解決したのか?」
「解決…どうでもよくなっちゃったの。わたしは軍のために作られただけだって、諦めついたの。自由少ないけど、どう楽しく生きてやろうかって、それだけ。きっと、死ななかったら、キラくんもどうでもよくなるよ」
「そりゃあ、悟ってるな」
「まぁね」

二人は自然に手を繋ぐ。仲のよい兄妹のようにみえるだろうか。恋人のようにみえるだろうか。
イオリは彼の大きな手のひらをギュッと握りしめた。キリキリと細い指が締まる。彼女もまだ子どもだ。美しく、いかに優秀な兵士だとしても、彼女もまだ子どもなのだ。
手の痛みには気付かないふりをした。

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