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青い薔薇を彼方に(FF7 ルーファウス)

青い薔薇を彼方に(ルーファウス) 
 私には恋焦がれてやまぬ女が居た。神羅カンパニーの鬼門、開発部に属する変わり者の女。もの珍しさに近づいて、一蹴されたときはとても世界を信じられなかった。当時の私は、世の女で(もしくは男も)自分に靡かぬものはいない、と信じていたのだ。地位も、名声も、金も、顔も身体だって、完璧だと自負してきた私には途轍もないショックで、大人気なくも数日寝込んでしまうほどであった(莫迦だ)
 彼女は名をリリスと云い、理知的な茶髪を高くした姿が白衣に非常に映えていた。声をかけたきっかけは、若い(しかも美しい)女性が休日にまで出勤して、研究室に篭っているのを発見し、一体何が彼女をこんなにも一途に夢中とさせているのだろうと興味をもったからだった。美女が自分以外に夢中になっているということが許せなかったというのもある。なんて傲慢な話だろう。
「何をそんなに真剣になっているんだ?折角の休日だろう」
「お仕事じゃないんです。道楽。趣味なの。わかる?」
 リリスは顕微鏡から目を離すこともせず、副社長である私に返事をした。顔を見ていなかったから、誰だかわかりませんでした、なんて通じるとは思ってないだろう。何しろ入室する際にわざわざ「ルーファウスだ」と告げて入ってきたのだから。
「何が君をそこまで夢中にさせるんだ?」
「副社長こそ変人にいつまでも構ってたら、大勢の彼女たちが逃げてきますよ」
「・・・私のことはいいんだよ。教えてくれないのか?」
 秘密です、と空気に向かって話すようにそっけない返事をする彼女に(僅かにだが)業を煮やし、ここぞとばかりに職権を利用させてもらうことにした。普段わたしはそんな回りくどいことなどしないものだが、こうも頑なな、変人に対してなら使ってもいいなと判断した。子供っぽい態度には子供っぽい仕返しだ。(目には目をとかいうだろう)
「神羅の設備でなにかしているんだ。監査室にばらされたくなかったら吐くんだな。これでも一応副社長なんだ。見逃せないな」
「・・・左遷されてるくせに」
「ほお」
 リリスはひどく嫌そうな表情で振り向くと、その大きな瞳に私の顔を写した。それはとても快感的な瞬間であった。一種、電流が走ったような感覚に陥り、その挑戦的で、懐かないネコのような瞳に釘付けとなった。初めてこちらを見つめる彼女のあまりに無垢な視線に毒気を抜かれてしまったのかも知れなかったが、たしかにその瞬間が恋だった。
「薔薇です。薔薇つくってるんです副社長様。青いバラ見たいんです」
「薔薇、か。いい趣味してるな意外と。もっと変なものでも造ってるんじゃないかと思ってたんだが・・・」
「喧嘩うってるんですか」
「いやすまない。成功を祈っているよ」
変人といえど、美女とバラ。なんて美しい光景だろうか。
 暫く会わぬ時間が過ぎ、久しぶりに監査で訪れた開発部の彼女のデスク(と思われる物置)には紫をした薔薇が飾られていた。一輪挿しが無造作においてあり、ブルーパープルの花弁をした其れが活けられていた。
「紫の薔薇か。あれを思い出すな。紫の薔薇の人は最後どうなったのだったか」
「わたしまだ最後まで読んでないんです。云わないで下さいよ!」
 懐かしいくらい昔に読んだマンガの登場人物の名を呟いてみると、珍しくリリスから食いついてきた。笑いをこらえきれず、ぷっと吹き出してしまう。なんだこの女、マンガ好きなのか。あの休日の研究室以来、全く接触のなかった彼女が、あの日と同じように話してくれたことに嬉しさを覚えた。
「ほお、あれ好きなのか。うちに確か、DVDがあったが」
「貸してください!」
「明日副社長室においで。親父が好きでな。俺も一通り見たんだが、面白かった。貸してやるよ」
「ありがとうございますっ」
 少しの間そのマンガのことで話していると、入り口に控えていた秘書代わりのツォンがアイコンタクトを送ってきた。男と視線のやりとりなんぞしたくはなかったが、奴の瞳は(いいかげんにしろこのバカ副社長。こっちは時間がねえんだよ)と云ってるように見えた(おそらく当たっている)。ツォンを無視してリリスとの会話を続行させることにした。なにぶん久方ぶりの会話なのだ。
「ところで、紫の薔薇ができたのはわかったが、君の目標は青い薔薇だったろう。出来たのか?」
 彼女は顔を曇らせ、とても哀しそうな表情をした。答えなどきかずとも、研究の成果は分かってしまったのだが、律儀に彼女は問いに答えた。
「いいえ、できないんです。紫まではできるんだけど、蒼にはなってくれない。青い薔薇がみたいのに、どうしてだろうって。そしたら、薔薇の遺伝子には、蒼を発色させる機能が根本的に欠落していることがわかって、でもどうにかなるかいやどうにかさせるんだって色々試したりしたんですけど、この紫が限界でした」
 ワンブレスで一気に喋ったリリスは、大きく肩で息をした。さすがはインテリ系引きこもり研究者だ。体力がない。
「もし・・・私が青い薔薇をつくったとしよう。そしたら、夕食に付き合ってくれないか」
「おごりですか」
「もちろんだよ・・・」
「じゃあ、いいですよ。たのしみにしてます。わたしはもう諦めちゃったけど、ルーファウスさん。青い薔薇の花言葉しってますか?不可能っていうんですよ。だから、夕食も不可能ってわけじゃなくなると思います」
それから私は一大プロジェクト(もちろん個人的な)として各地より選りすぐりの研究者を集め、「青い薔薇プロジェクト」なるを組んだ。全ては彼女と夕食に行きたい思い一心である。が、それらは上手くいかず、集めた植物学者たちにもそれはむりなことだと諭された。
私の莫迦な行いは、カンパニー内でも有名になり、からかわれたりもしたが、限りなく蒼に近い薔薇の栽培に成功したときは、社員一同(からかい半分で)拍手を呉れた。しかしその色は、かつて彼女が一輪デスクに差していたあの薔薇と同じ色合いであり、私の心は沈むばかりだった。
そんなとき、秘書より連絡が入った。開発部のリリスがアポを求めていますがいかがしますか・と。思わず了承してしまったが、次の瞬間にはしまったと思った(すでに遅かったが)
「ルーファウスさん。これ、DVD、長い間ありがとうございました」
「ああ・・・還さなくてもいいといっただろう」
「ねえ、薔薇、出来たってきいたんです。見せてくれないんですか」
「これは、君の求めた薔薇とは掛け離れている。見せられないさ」
「わたしのために、作ってくれたんですよね。みせてください」
リリスにしつこく詰め寄られ、私はついに、出来損なった薔薇を差し出した。
私の指は、悪あがきのために青く染まっていた。
「・・・白薔薇を、絵の具で染めただけの偽物だ」
彼女の手に奪われた一輪の薔薇は、秘書からの連絡の後、急いで私が自ら色を塗った薔薇だった。子供が使うような絵の具しか用意できず、白かった花弁はまばらなブルーに染まっている。私は恥ずかしさに目を瞑り、椅子に背を任せた。リリスはなにも云わない。呆れているのだろうか。
私は自分がこんなにも情に篤い人間であったのだとそのときまで気付かなかった。他人なんて、邪魔だと思えばいくらでも消してきたし、必要と思えば屹度父親ですら殺すだろう、そんな男だ。女は腐るほど集まってくるし、こうしてたった一人のしかも変態じみた女に執着するなんて信じられなかった。
目をあけると、リリスは笑っていた。初めて見る笑顔だ。
「これがいいです。こんな素敵な薔薇、みたことありません。ありがとうルーファウスさん。これが見たかったんです。とても嬉しいです。ありがとうございます。感動しました。なにがどう嬉しいかって、あなたの汚れた指とか、まばらな青とか、そんなのばっかりなんですけど、これ以上ないくらいに嬉しいです。」
「・・・こんなもの、嬉しいのか?」
「はい!DVDより嬉しい」
「じゃあ・・・夕食に、今晩付き合ってもらえるだろうか」
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