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趙雲1

あれは不思議な感覚だった。雨の降りしきる視界の悪い夜だった。
血まみれの女性が視界に入った。重傷だが、まだ生きていたので、保護した。それだけだったのに、血の気のない青白い顔が頭から離れなかった。
虎牢関の前で、馬上の彼女をみたことがあった。戦場に女人を連れてきて、なおかつ剣を持たせるなんて不届きだと最初は思ったが、彼女の戦いに目を奪われた。それは勇気ある剣士だった。


まさか神子を保護することになろうとは考えても見なかったが、苦しむ彼女を楽にしたい一心で手当てを施した。前線の野営に、彼女を頼める者もなく、周りの兵には女性を保護したことは伏せておいた。
神子のびしょ濡れの服を脱がせる。湯で濡らした布で体を拭き、髪についた泥を落とすと、それが艶やかな黒髪だと分かった。背中にできた大きな傷に薬を塗り、包帯を巻いた。出来るだけ体を見ないように、触れないようにと頑張ったが、白い肌はきっと抱けばすべすべと心地よいだろう。柔らかな感触がずっと手に残っていた。

「あ…あれ、わたし…」
「!目が覚めましたか」
あの夜から数日、神子は眠り続けていた。まだ傷が痛むのだろう、神子は苦痛に顔を歪めた。
「安静にしていてください。まだ傷が治っていません。私は劉備軍の趙雲と申します。ここは私の幕です。虎牢関の外れであなたが倒れていたので、お連れしました」
神子は安堵の表情を見せた。少なからず信頼してくれたのだろう。ふっと、肩の力が抜けた様子に、どれだけの不安で戦場に立ったのだろうと胸がいたんだ。女人が剣を持ち、戦うなんて男の何倍も恐ろしい思いだろう。

「暁の神子殿とお見受けいたします。何故あのような場所で…」
「呂布と…呂布と戦っていたんです。別働隊として動いていたら、運悪く出会ってしまって…わたしを捕まえようとするので、必死に逃げて…」
「そこから先は覚えてません」
「そうでしたか。お辛い思いをされたことでしょう。早くお国もとと連絡をとって差し上げたいのですが、なにせ戦の最中です。いましばらくお待ちください。きっと無事にお返しします」
「ありがとうございます趙雲殿。わたし、真矢っていいます。」
神子はほころぶような笑みをみせた。ツボミが花ひらくような、心の美しい者だけができる柔らかい笑みだ。きっと曹家では大切に大切に愛されていたのだろう。趙雲は憧れのような淡い感情を抱いた。
日々、死と隣り合わせの戦場で暮らす趙雲は、女性にはこのように笑っていてほしいという理想のようなものがあった。豪華な衣服を纏っておらずとも、内面から輝くような温かい笑顔を守りたいといつも漠然と思い浮かべていた。

「しばらくはここで傷を癒やしてください。申し訳ありませんが、私以外、あなたがここにいることを知りません。男所帯ですので…その…不届き者がいないとも限りませんので…」
「…はい。幕から出ないようにします」
「狭苦しいところで申し訳ありません」
「とんでもない!こんな…保護していただいて…手当てまで…」
「いえ…あの、出来るだけ見ないようにはしているのですが、その…すぐに準備して包帯をとりかえます!少々お待ちを!」

真矢は趙雲の慌てように首をかしげたが、着ている上着の中をみて納得した。素肌に包帯が巻いてある。部下にも自分の存在を秘密にしているのだ、つまり趙雲が包帯を巻いてくれたことになる。そういえば、泥まみれで行き倒れた割に髪も体も清潔だ。申し訳ない気持ちと、恥ずかしい、情けない気持ちで真矢の顔も真っ赤に染まった。

「神子殿、薬をお持ちしました。その、灯りを落としますゆえ、傷を見せていただけますか。傷口が膿むといけませんから」
「ごめんなさい、お気を遣わせてばっかりで…あの、趙雲殿は私になにかするような方じゃないって、よく分かります!こんなに良くして下さってて、すごく感謝してるんです。恥ずかしいですけど、大丈夫です。自分ではできないし、どうかお手当よろしくお願いします」
「はっ、では、失礼します」
趙雲は部屋の灯りを最低限に絞り、真矢の上着をはいだ。血が乾いて、包帯をほどくたびにつらそうな声が漏れる。意識がある分、昨夜より辛いだろう。趙雲は濡らした布を傷口にあて、包帯をふやかしながらゆっくりとすすめた。ついでに身体の汗を拭ってやると、真矢は恥ずかしそうに俯いた。視線を合わせられない。女人の肌を見るのは初めてではないが、今までのどんな女とも違って見えた。火の光が揺れて、神子の肌がぼんやりと浮かび上がる。
これは、失敗だったなと趙雲は思った。光の下のほうがまだ健全だったかもしれない。邪な考えを神子に悟られぬよう、平静を装っていた。
「薬がしみます。声を出さないようにお気をつけください。」
「は、い」
神子はぐっと身体をかたくして、痛みをこらえた。弓なりにそる背中が細く頼りなく、趙雲はこの人の痛みを自分が代わってやれないことがつらかった。
「傷は痕も目立たないと思います。さすが呂布というべきか、切り口が鮮やかです。」
「傷なんて…」
「女人の肌を傷つけるなんて許せない…戦の犠牲になるのはいつも弱き者です。守るために戦うはずなのに」
「趙雲殿は…誰かを守りたかったんですね」
「ええ、そうです…守れなかった悔しさが忘れられません」
「優しいひと」
「失礼しました。…私は隣におりますので、ゆっくりお休みください」

神子の言葉が頭から離れなかった。守りたかったものと、自分が今日も奪っているもの。今斬った兵士にも大切な人がいただろう。無事を祈る妻や母親がいただろう。人を切る度に、平和のために戦う度に、人を殺すという矛盾を抱える。心に迷いがあれば、明日死ぬのは自分かもしれない。自分が死んでは劉備の築く平和の世が遠くなる。結局戦うことしか自分には出来ないし、自分がもし死んだときに悲しむ人を増やしたくないから、妻を持つ気にもならない。趙雲は自分のことを誠実だと評価していたが、優しいかといわれると疑問があった。しかし神子の言葉を聞いたとき、体に電流が走った。自分はずっと、優しくありたかったのだ。

「お帰りなさい趙雲殿。お怪我ありませんか?」
「はい、神子殿も傷の具合はいかがですか?」
「最初に比べると痛みも減ってきました。早く動きたいくらいです」
「お腹がすいたでしょう。多めに用意してもらいました。一緒に食べましょう」

「数日中に本隊と合流できそうです。そうしたら護衛と世話役をお付けできます。連合軍にも劉備殿から知らせを送っていただけるようにお願いするつもりです」
「趙雲殿とは…お別れなんですか?」
「神子殿?」
「あ、いえ、寂しいなって思って…」
「毎日お見舞いに参ります」
「すみません、なんだか心細くて、甘えすぎですね私」
「いえ!嬉しいのです!その、私は女人にどのように接すればいいのかよく分からず…私でよければ、もっと頼っていただけたら、嬉しいのです」
「わたしが、神子だから、優しくしてくれるんですか?」
「そんな!神子殿、私は、あなたがあなただからお守りしたいと思うんです。神子だからあなたは清浄なのかもしれないが、そのお心の美しさはあなた自身のものです…」
「わたし、自分が本当にみんなのいう神子ってやつなのか、分からないんです。特別な力なんかないし…だから、もし、神子じゃなかったら、みんなの期待に応えられないことがあったら、申し訳なくて」
「不安にさせてしまっていたんですね。神子殿…私はあなたは暁の神子だと感じます。しかし、もしそうでなかったとしても、あなたがあなたであることに変わりはありません。むしろ、神子でないほうが…私は…」
「え?」
「神子は戦場へ行く定めと聞きます。あなたが只人ならば、戦から遠い場所に守っていられる…大切に、危険から遠ざけて…慈しみたいと思うのです」
「そんな…そういうことは好きな女性に言ってあげてください。きっと嬉しいと思います」
「好きな女性…」
「そんなこと言われたら勘違いしちゃいますよ」
「あなたは、ひと目みたときから、私の女神です」
「え、趙雲殿」

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