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サンクチュアリ
書きたいところだけ書く
サンクチュアリ
クロヴィスの棺を開けると、そこには彼だった肉体が眠るように横たわっていた。顔色がよくないが、いまにも目を覚ましてただいまと微笑みそうにみえる。そっと頬に触れる。氷のように冷たくて、セラはようやく彼が死んだのだと理解した。
「クロヴィス…お帰りなさい…」
もう握りかえしてはくれないてのひらを包み込む。芯まで冷えるような心地がした。不思議と涙はでなかった。
こんなに綺麗なのに、死んでいるだなんて。
「ひどい顔色だよ。部屋に戻ろう。君が倒れてもクロヴィスは喜ばない」
シュナイゼルはいつまでもクロヴィスの手を握っているセラの肩を抱いた。彼女の心を現すような体の冷たさにどれだけ二人が愛し合っていたか身に染みた。
「お願いシュナイゼル、クロヴィスと一緒にいたい…」
「君まで消えてしまいそうだ」
「それができたら…」
「…変なことだけは考えてはいけないよ」
そう言い残しシュナイゼルは退室した。あと数時間で葬儀が始まる。
喪服に身を包んだセラは美しかった。焦燥していたが、背筋を伸ばし気丈にも涙さえみせないその様子は電波に乗ってブリタニア中を深い悲しみに包み込んだ。
皆が涙を流す中、最後までセラは涙はみせなかった。クロヴィスが心配せずに旅立てるようにと。
「部屋に帰ろう。君は少し休まなくちゃいけない」
雨が降り始めた。墓の前に立ち尽くし、じっと俯くセラにシュナイゼルは傘を差し出し肩を優しく抱いた。セラは彼を振り仰いで彼の名を呼ぶ。
「わたしになにか話があるんでしょう?」
「私の部屋で話そう。おいで」
無言で宰相府の廊下を歩く。静まり返った空間は二人の足音を響かせる。シュナイゼルのプライベートエリアに入るとすでに人払いされていて、常駐のメイドさえ見当たらなかった。
「酷な話だ。後日日を改めてでもいいんだよ?」
「察しはついています。私は彼の婚約者として生かされていた。また選ばねばならない」
「選択肢は3つだ。敵対国の姫として自由を奪われるか、他の皇子と婚姻を結ぶか…秘密裏に故国に帰るか」
「帰る…それは予想外でした」
「今なら君を逃がしてあげられる。君の伯父上が協力してくれることになっている」
「ありがとうシュナイゼル。でも逃げません。婚姻も結構です。わたくしはわたしの役目を果たす」
「それは捕虜になるということだよ」
「誰かを頼れば、その方や協力してくれる方の負担になる。わたくしは6歳のとき一度死に、3年前にもう一度…そしてまた死んだの。もう充分に生きました。思いがけず、愛する人と生きることもできた…もういいんです」
「ではその命、私にくれないか」
「どういう意味です」
「私は君が欲しい。3年前はクロヴィスに譲ったが、今回は誰にも譲るつもりはない。君たちが幸せそうに笑っていたから、諦めたんだ」
シュナイゼルは苦しそうに目を細めた。セラの笑顔が昔から好きだった。あのときクロヴィスが言わなければ自分が彼女を妻にしていた。セラが欲しくて、宰相まで登りつめたのだ。
「君に初めて会ったときから好きだったよ。君が強がらないでいいように、守りたいと思ったんだ。君の残りの人生を私にくれないか」
「わたくしは…クロヴィスの…」
「まだ婚約者だった。時勢によって相手が変わるなんてよくある話だし、君の立場を思えば誰もおかしいとは思わないよ」
「拒否しても、あなたは受け入れないんでしょう」
「よく分かっているね」
シュナイゼルは肯定の言葉と受けとった。そっと頬に触れ、セラが逃げないことを確かめると優しく口付けた。セラは抵抗もせず黙ってそれを受け入れる。契約の儀式だ。シュナイゼルはセラを手に入れ、セラは命とある程度の自由を約束される。
ゆっくりと押し倒されるのを感じながら、愛する人を充分に忌むことさえできないのかと、絶望に目を閉じた。
「…もう、なにも考えたくない…」
シュナイゼルは喪服を丁寧に剥ぎ取っていく。セラはクロヴィスを想った。
拒むことも死ぬことも、なにもできない私を許してくれるだろうか。
クロヴィスの指とは違うものが体に触れるたび、そこから思い出が消えていってしまうような感覚。
シュナイゼルはきつく瞳を閉ざしたセラを抱きしめる。冷えた体。雨にうたれ冷え切った体を温めるように手足を絡めた。
「私をクロヴィスだと思って」
ビクッとセラが跳ねた。思わずシュナイゼルと目が合ってしまう。ずっとクロヴィスのことを考えていたと見透かされていたのかと思ったが、そんなことはどうでもよくなってしまった。彼の傷ついたような瞳に驚く。
「私も、クロヴィスが愛しいよ…」
「クロヴィス…クロヴィス…っ!」
セラはクロヴィスの名を呼びつけた。初めて涙をながし、すがりついた。
ブリタニアに来て初めて流す涙だった。
サンクチュアリ
クロヴィスの棺を開けると、そこには彼だった肉体が眠るように横たわっていた。顔色がよくないが、いまにも目を覚ましてただいまと微笑みそうにみえる。そっと頬に触れる。氷のように冷たくて、セラはようやく彼が死んだのだと理解した。
「クロヴィス…お帰りなさい…」
もう握りかえしてはくれないてのひらを包み込む。芯まで冷えるような心地がした。不思議と涙はでなかった。
こんなに綺麗なのに、死んでいるだなんて。
「ひどい顔色だよ。部屋に戻ろう。君が倒れてもクロヴィスは喜ばない」
シュナイゼルはいつまでもクロヴィスの手を握っているセラの肩を抱いた。彼女の心を現すような体の冷たさにどれだけ二人が愛し合っていたか身に染みた。
「お願いシュナイゼル、クロヴィスと一緒にいたい…」
「君まで消えてしまいそうだ」
「それができたら…」
「…変なことだけは考えてはいけないよ」
そう言い残しシュナイゼルは退室した。あと数時間で葬儀が始まる。
喪服に身を包んだセラは美しかった。焦燥していたが、背筋を伸ばし気丈にも涙さえみせないその様子は電波に乗ってブリタニア中を深い悲しみに包み込んだ。
皆が涙を流す中、最後までセラは涙はみせなかった。クロヴィスが心配せずに旅立てるようにと。
「部屋に帰ろう。君は少し休まなくちゃいけない」
雨が降り始めた。墓の前に立ち尽くし、じっと俯くセラにシュナイゼルは傘を差し出し肩を優しく抱いた。セラは彼を振り仰いで彼の名を呼ぶ。
「わたしになにか話があるんでしょう?」
「私の部屋で話そう。おいで」
無言で宰相府の廊下を歩く。静まり返った空間は二人の足音を響かせる。シュナイゼルのプライベートエリアに入るとすでに人払いされていて、常駐のメイドさえ見当たらなかった。
「酷な話だ。後日日を改めてでもいいんだよ?」
「察しはついています。私は彼の婚約者として生かされていた。また選ばねばならない」
「選択肢は3つだ。敵対国の姫として自由を奪われるか、他の皇子と婚姻を結ぶか…秘密裏に故国に帰るか」
「帰る…それは予想外でした」
「今なら君を逃がしてあげられる。君の伯父上が協力してくれることになっている」
「ありがとうシュナイゼル。でも逃げません。婚姻も結構です。わたくしはわたしの役目を果たす」
「それは捕虜になるということだよ」
「誰かを頼れば、その方や協力してくれる方の負担になる。わたくしは6歳のとき一度死に、3年前にもう一度…そしてまた死んだの。もう充分に生きました。思いがけず、愛する人と生きることもできた…もういいんです」
「ではその命、私にくれないか」
「どういう意味です」
「私は君が欲しい。3年前はクロヴィスに譲ったが、今回は誰にも譲るつもりはない。君たちが幸せそうに笑っていたから、諦めたんだ」
シュナイゼルは苦しそうに目を細めた。セラの笑顔が昔から好きだった。あのときクロヴィスが言わなければ自分が彼女を妻にしていた。セラが欲しくて、宰相まで登りつめたのだ。
「君に初めて会ったときから好きだったよ。君が強がらないでいいように、守りたいと思ったんだ。君の残りの人生を私にくれないか」
「わたくしは…クロヴィスの…」
「まだ婚約者だった。時勢によって相手が変わるなんてよくある話だし、君の立場を思えば誰もおかしいとは思わないよ」
「拒否しても、あなたは受け入れないんでしょう」
「よく分かっているね」
シュナイゼルは肯定の言葉と受けとった。そっと頬に触れ、セラが逃げないことを確かめると優しく口付けた。セラは抵抗もせず黙ってそれを受け入れる。契約の儀式だ。シュナイゼルはセラを手に入れ、セラは命とある程度の自由を約束される。
ゆっくりと押し倒されるのを感じながら、愛する人を充分に忌むことさえできないのかと、絶望に目を閉じた。
「…もう、なにも考えたくない…」
シュナイゼルは喪服を丁寧に剥ぎ取っていく。セラはクロヴィスを想った。
拒むことも死ぬことも、なにもできない私を許してくれるだろうか。
クロヴィスの指とは違うものが体に触れるたび、そこから思い出が消えていってしまうような感覚。
シュナイゼルはきつく瞳を閉ざしたセラを抱きしめる。冷えた体。雨にうたれ冷え切った体を温めるように手足を絡めた。
「私をクロヴィスだと思って」
ビクッとセラが跳ねた。思わずシュナイゼルと目が合ってしまう。ずっとクロヴィスのことを考えていたと見透かされていたのかと思ったが、そんなことはどうでもよくなってしまった。彼の傷ついたような瞳に驚く。
「私も、クロヴィスが愛しいよ…」
「クロヴィス…クロヴィス…っ!」
セラはクロヴィスの名を呼びつけた。初めて涙をながし、すがりついた。
ブリタニアに来て初めて流す涙だった。
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