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トリコ アラスカ脱出の後 フラガ
アラスカ脱出後、イオリの指示通りオーブへ向かうことになった。ユーラシアの母港に戻る艦もあったが、アークエンジェルと共にオーブへ向かう艦も少なくはない。皆、銃殺刑を受けるために大西洋連邦に戻るつもりも、信用できない上層部のために戦うつもりもないのだろう。
どうしても不器用な者達だけは、パナマへ向かうと去っていった。
イオリの告白により、本より捨て駒とされた者達は地球軍への怒りと絶望に満ちていた。彼女がコーディネーターであることを黙っていたことは、彼女の立場を考えれば仕方のないことではないかという声を多く耳にした。
しかし、それも「命を懸けて我々を逃がし、殉職した少女」に向けられる感謝と慰めの言葉だった。
イオリはきっとオーブに来る。
きっと彼女も基地を脱出し、俺たちと合流するためにオーブへ向かっているはずだと、自分に言い聞かせる。
キラだって生きていたのだ。遺体を抱くまで、希望は消えない。
アークエンジェルがオーブに入港して、3日。遅れて到着する艦も日に日に少なくなり、遂に今日は1艦のみとなった。
アラスカからオーブまで、戦闘機で飛べる距離ではない。そんなことは分かっていた。
途中で中立国に保護されている可能性もある。
奴に希みを託すのは悔しいが、クルーゼがイオリを攫った可能性も高い。
「少佐、少し休んでください。今は、休まないと」
「もう、少佐ではないんじゃない?ラミアス艦長?」
「あ、…そうですわね。ほら、部屋に行って下さい。戦友としてのお願いです。」
「ああ、そうするよ。艦長、イオリが戻ったら、すぐ起こしてくれ」
「ええ、必ず。」
マリューは困ったような、悲しむような顔で笑った。俺以外、誰もイオリの生存を信じる者はいない。俺が逆の立場だったら同じことを思うだろう。彼女を責める気持ちにはなれなかった。
目を閉じると、イオリの唇の感触が蘇る。薄いが、柔らかく、すこしヒヤッとした。
「絶対に戻る」と言った。死の覚悟ではない、生き残る覚悟をした瞳だった。もっと早く、思いを伝えれば良かった。年や立場や恐れなんて考えずに、愛していると抱きしめていれば良かった。俺が愛しても良かったんだ。
今まで「保護者」の立場でイオリを愛することにこだわってきたことが、急にバカらしくなった。彼女は結局男を作らなかったし、俺だけを見ていた。同世代の男とそれなりに経験をして、それでも俺がいいというなら抱きしめる、なんて俺のエゴでしかなかったのだ。
別れなんて、軍人ならば覚悟が出来ていたはずなのに。
「好きです」
イオリの声が響く。
彼女の気持ちには気付いていた。
何年も前から気付いていた。
俺が彼女を欲望や醜聞から守りたかったように、彼女もまた俺を彼女の立場やしがらみから守ってくれていたのかもしれない。
人の消えた極限状態のアラスカで、初めて触れた唇。何も言えなかった自分。
早く戻ってこい。
誰の目も、しがらみも気にせず、抱きしめてもう離さない。
どうしても不器用な者達だけは、パナマへ向かうと去っていった。
イオリの告白により、本より捨て駒とされた者達は地球軍への怒りと絶望に満ちていた。彼女がコーディネーターであることを黙っていたことは、彼女の立場を考えれば仕方のないことではないかという声を多く耳にした。
しかし、それも「命を懸けて我々を逃がし、殉職した少女」に向けられる感謝と慰めの言葉だった。
イオリはきっとオーブに来る。
きっと彼女も基地を脱出し、俺たちと合流するためにオーブへ向かっているはずだと、自分に言い聞かせる。
キラだって生きていたのだ。遺体を抱くまで、希望は消えない。
アークエンジェルがオーブに入港して、3日。遅れて到着する艦も日に日に少なくなり、遂に今日は1艦のみとなった。
アラスカからオーブまで、戦闘機で飛べる距離ではない。そんなことは分かっていた。
途中で中立国に保護されている可能性もある。
奴に希みを託すのは悔しいが、クルーゼがイオリを攫った可能性も高い。
「少佐、少し休んでください。今は、休まないと」
「もう、少佐ではないんじゃない?ラミアス艦長?」
「あ、…そうですわね。ほら、部屋に行って下さい。戦友としてのお願いです。」
「ああ、そうするよ。艦長、イオリが戻ったら、すぐ起こしてくれ」
「ええ、必ず。」
マリューは困ったような、悲しむような顔で笑った。俺以外、誰もイオリの生存を信じる者はいない。俺が逆の立場だったら同じことを思うだろう。彼女を責める気持ちにはなれなかった。
目を閉じると、イオリの唇の感触が蘇る。薄いが、柔らかく、すこしヒヤッとした。
「絶対に戻る」と言った。死の覚悟ではない、生き残る覚悟をした瞳だった。もっと早く、思いを伝えれば良かった。年や立場や恐れなんて考えずに、愛していると抱きしめていれば良かった。俺が愛しても良かったんだ。
今まで「保護者」の立場でイオリを愛することにこだわってきたことが、急にバカらしくなった。彼女は結局男を作らなかったし、俺だけを見ていた。同世代の男とそれなりに経験をして、それでも俺がいいというなら抱きしめる、なんて俺のエゴでしかなかったのだ。
別れなんて、軍人ならば覚悟が出来ていたはずなのに。
「好きです」
イオリの声が響く。
彼女の気持ちには気付いていた。
何年も前から気付いていた。
俺が彼女を欲望や醜聞から守りたかったように、彼女もまた俺を彼女の立場やしがらみから守ってくれていたのかもしれない。
人の消えた極限状態のアラスカで、初めて触れた唇。何も言えなかった自分。
早く戻ってこい。
誰の目も、しがらみも気にせず、抱きしめてもう離さない。
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