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トリコ 虎との邂逅~フラガ
アンドリュー・バルトフェルドと話してから、イオリの様子がおかしかった。夜会を終え、迎えの車に乗り込む。ネクタイを緩めて深いため息をついた。慣れないことはするもんじゃない。
結局、アルジャイリーの暇つぶしに利用されただけだった。一晩で物質2割引きというのは、ありがたいバイトだったが。
「あのとき、話し込んでたから戻らなかったが…大丈夫か?少し様子が変だ」
隣に座るイオリに視線を向けると、さっと視線を逸らされた。今までこんなことをされたことはなかった。地味に傷ついた。ような気がした。
「あ…立派な人でした。軍人とは思えない方で、…いろいろ言い当てられてしまいました。我々の正体も。」
あのとき、イオリに話しかけてきた時点でそんな予感がしていた。
「やっぱりバレてたか」
特に驚きはしなかったが、このイオリの落ち込みようが心配だ。なにか言われたのだろう。そばを離れたのが悔やまれた。
「…やりにくくなったか?」
「いえ、守りたいものをお互い守ろうと言っていました。」
「守りたいもの、ね」
「…守りたいもの…」
イオリは小さくつぶやくとそのまま押し黙った。彼女の守りたいものとはなんだろうか。彼女が軍に入ったのは決して自分の意思ではない。選択の自由なく、その血筋に課された強制であることはよく知っていた。俺は父親に逆らってみたことがあるが、イオリはその自由すら持ったことはないだろう。
頬が少し赤い。アルコールが効いているのだろうか。
車がゆったりとブレーキをかける。ほんの少し慣性に逆らうと、横に投げ出していた腕の先、ほんの小指の先だけが、彼女のそれに触れた。ヒヤッと冷たい温度を感じる。急に離れるのも変かなと、酔っているフリをして動かなかった。
このまま手を握りしめたい衝動に駆られる。パーティーでは手どころか、腕を組んでさえいたのに。今はこれ以上触れることさえ出来ずにいる。
触れることさえためらう、9歳も年下の少女に、自分のような大人の男が行動を起こしてはいけない。
出会ったとき彼女はまだ13歳だった。すでに完成された美しさをもっていたし、彼女でいらぬ妄想をする同輩もいた。俺自身、そういうこともなかったとは言えないが、大人の邪な欲望から彼女を守るのが自分の責務だと思ってきた。
生まれる前から苦しみを背負う彼女には、年相応の恋愛をして愛する相手と結ばれる、そんな当たり前の幸せをあげたいと思ったのだ。
士官学校の同輩には「保護者」と揶揄されていたが、実のところ父の愛も兄の愛も持ち合わせてはいない。ただ、イオリの幸せをひとりの男として願っていた。
キラ達と話す姿を見ることも増えて、この中の誰かをイオリが愛することがあるかもしれないと思ったとき、胸が鈍く痛んだ。
指が熱い。
自分の熱なのか、彼女の熱なのか分からなかった。
ほんの指先だけの交わりは、今まで自分が経験してきた行為に比べるとあまりにも健全で、体温を共有するようなものではない。しかし、イオリの冷たい指先が、いつの間にか俺の体温に混じり、どこからが自分の体で、どこからがイオリなのか分からなくなっている。
このまま一つになってしまいたい。
あの行為の気持ちよさ、女の肌の柔らかさをよく知る身としては、今すぐ彼女を押し倒し、欲望のまま掻き抱いてしまいたい。きっと、今まで経験したことのない快感を覚えるだろうことは予想がついた。
手を握ってしまおうか。
今なら酔っていた、と言い訳が立つ。
そんなことを逡巡しているうちに、車は最終目的地に到着した。
イオリの頬は、まだ熱い色をしていた。
「フラガさん、着きましたよ。寝てました?」
「あ、いや、ちょっとぼーっとしてただけだ。お手をどうぞ、婚約者殿」
「もうお芝居はおしまいで大丈夫ですよ。」
「でもさ、ほら、そんな高いヒールじゃない。」
「…ありがとうございます。」
イオリが俺の手をとる。
電気が走るようだった。
少し汗ばんだ手のひらが二人の境界線を薄くした。
砂漠の砂を踏みつける度に、細いヒールが飲み込まれていく。バランスの悪いまま、「やっぱり着替えて戻るべきでした」とイオリが毒づく。短い距離を歩くと、すり抜けるように手を離す。
体はもう一度、あの電撃が欲しくて、着替えに戻る彼女の後ろ姿を見送った。
「フられましたね、少佐」
「うるせーな。そんなんじゃないんだよ」
運転手をしたノイマン曹長がからかう。
そう、そんなもんじゃない。
そんな在り来たりなもんじゃないんだ。
結局、アルジャイリーの暇つぶしに利用されただけだった。一晩で物質2割引きというのは、ありがたいバイトだったが。
「あのとき、話し込んでたから戻らなかったが…大丈夫か?少し様子が変だ」
隣に座るイオリに視線を向けると、さっと視線を逸らされた。今までこんなことをされたことはなかった。地味に傷ついた。ような気がした。
「あ…立派な人でした。軍人とは思えない方で、…いろいろ言い当てられてしまいました。我々の正体も。」
あのとき、イオリに話しかけてきた時点でそんな予感がしていた。
「やっぱりバレてたか」
特に驚きはしなかったが、このイオリの落ち込みようが心配だ。なにか言われたのだろう。そばを離れたのが悔やまれた。
「…やりにくくなったか?」
「いえ、守りたいものをお互い守ろうと言っていました。」
「守りたいもの、ね」
「…守りたいもの…」
イオリは小さくつぶやくとそのまま押し黙った。彼女の守りたいものとはなんだろうか。彼女が軍に入ったのは決して自分の意思ではない。選択の自由なく、その血筋に課された強制であることはよく知っていた。俺は父親に逆らってみたことがあるが、イオリはその自由すら持ったことはないだろう。
頬が少し赤い。アルコールが効いているのだろうか。
車がゆったりとブレーキをかける。ほんの少し慣性に逆らうと、横に投げ出していた腕の先、ほんの小指の先だけが、彼女のそれに触れた。ヒヤッと冷たい温度を感じる。急に離れるのも変かなと、酔っているフリをして動かなかった。
このまま手を握りしめたい衝動に駆られる。パーティーでは手どころか、腕を組んでさえいたのに。今はこれ以上触れることさえ出来ずにいる。
触れることさえためらう、9歳も年下の少女に、自分のような大人の男が行動を起こしてはいけない。
出会ったとき彼女はまだ13歳だった。すでに完成された美しさをもっていたし、彼女でいらぬ妄想をする同輩もいた。俺自身、そういうこともなかったとは言えないが、大人の邪な欲望から彼女を守るのが自分の責務だと思ってきた。
生まれる前から苦しみを背負う彼女には、年相応の恋愛をして愛する相手と結ばれる、そんな当たり前の幸せをあげたいと思ったのだ。
士官学校の同輩には「保護者」と揶揄されていたが、実のところ父の愛も兄の愛も持ち合わせてはいない。ただ、イオリの幸せをひとりの男として願っていた。
キラ達と話す姿を見ることも増えて、この中の誰かをイオリが愛することがあるかもしれないと思ったとき、胸が鈍く痛んだ。
指が熱い。
自分の熱なのか、彼女の熱なのか分からなかった。
ほんの指先だけの交わりは、今まで自分が経験してきた行為に比べるとあまりにも健全で、体温を共有するようなものではない。しかし、イオリの冷たい指先が、いつの間にか俺の体温に混じり、どこからが自分の体で、どこからがイオリなのか分からなくなっている。
このまま一つになってしまいたい。
あの行為の気持ちよさ、女の肌の柔らかさをよく知る身としては、今すぐ彼女を押し倒し、欲望のまま掻き抱いてしまいたい。きっと、今まで経験したことのない快感を覚えるだろうことは予想がついた。
手を握ってしまおうか。
今なら酔っていた、と言い訳が立つ。
そんなことを逡巡しているうちに、車は最終目的地に到着した。
イオリの頬は、まだ熱い色をしていた。
「フラガさん、着きましたよ。寝てました?」
「あ、いや、ちょっとぼーっとしてただけだ。お手をどうぞ、婚約者殿」
「もうお芝居はおしまいで大丈夫ですよ。」
「でもさ、ほら、そんな高いヒールじゃない。」
「…ありがとうございます。」
イオリが俺の手をとる。
電気が走るようだった。
少し汗ばんだ手のひらが二人の境界線を薄くした。
砂漠の砂を踏みつける度に、細いヒールが飲み込まれていく。バランスの悪いまま、「やっぱり着替えて戻るべきでした」とイオリが毒づく。短い距離を歩くと、すり抜けるように手を離す。
体はもう一度、あの電撃が欲しくて、着替えに戻る彼女の後ろ姿を見送った。
「フられましたね、少佐」
「うるせーな。そんなんじゃないんだよ」
運転手をしたノイマン曹長がからかう。
そう、そんなもんじゃない。
そんな在り来たりなもんじゃないんだ。
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