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tueto hum pa

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トリコ2

アークエンジェルにGが着艦した。すでに戦闘を経験したようで、装甲に傷が目立つ。しかし、機体は無事だ。


コクピットから出てきた人物を視認すると、ナタルは喜びの声を上げた。



「ラミアス大尉!ご無事でなによりであります!」



喜び、に聞こえないところがナタルの不器用なところだ。今までどれだけ心細かったか。上級士官の存在はそれだけで心を軽くしてくれた。しかも彼女は技術士官だ。艦の扱いにも詳しい。



しかしマリュー・ラミアスが民間人の少年たちを伴って来たことに驚きが隠せない。
この艦の存在こそが軍事機密のはずだ。



「ラミアス大尉、これは…」


マリューはなんと説明するか迷って表情をしかめた。



「へえ、こいつは驚いたな。第七師団ムウ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく。乗艦許可をもらいたいんだが」



友軍機MAから降りてきたのは金髪の若い男だった。状況にそぐわぬ明るい声色は、彼が幾度も戦場をくぐり抜けてきた実績を感じさせる。



「艦長以下主だった士官は亡くなりました。ジン中佐がご無事でしたが、頭部を負傷され、まだ意識が戻りません。よって今はラミアス大尉がその任にあると思われます。」



フラガは目を見開いてナタルの方を揺すった。



「イオリが?!どこにいるんだ」
「中佐は現在ブリッジにて安静にしておりますが、救護室もひどい有り様でして…士官用の居室を急いで片付けております。」
「分かった。彼女とは同期なんだ。取り乱してすまない。彼女の機体は無事なのか?」
「中佐の機体は…あれです。大きな損傷はありません。私と軍曹で中から救助しました。」



うずくまるように固まったMSが目の前にあった。床に血痕が残ったままだ。なるほど、突然の襲撃にヘルメットをつける余裕もなかったのだろう。



「艦長、乗艦許可を」
「あ…乗艦を許可します。フラガ大尉の機体は動きますか?早く脱出しなければ…」
「脱出、ですか…しかし護衛もなしに」
「俺のはダメだ。修理しないと。さっきコロニーに穴空けちゃったでしょ。次ザフトがきたらもう保たないよ。」



「君、コーディネーターだろ?名前は?」
「キラ…ヤマトです。」
「そいつにのるはずだったパイロットたちも、さっきのでみんな死んじまった。もう一人いるが、今は意識が戻らんらしい。この艦を守れるのは君と俺とだけってことだ。…やれるか?」



「やりますよ、やらなきゃ、みんな死んじゃうんでしょ!?」




「整備班は、こいつの、急いで治してくれ。俺のは脱出した後でいい。俺は少しイオリの様子を見てくる。医者は?」
「いません。止血だけしています。」
「ちっ…しょうがない。すぐ戻る」



フラガは教えられた士官室の扉を開けた。そこには血痕のついた包帯を巻いた、イオリの姿があった。


半年前に月基地で会って以来だ。少し大人びたと思ったが、疲れが出ているだけかもしれない。


「イオリ、入るぞ。また、無理をしたんだな」


フラガは語りかけるように呟いた。
額にかかった髪を分ける。血がこびりついた。毛布を数枚重ね、ベルトで彼女とベッドを固定する。士官用の居室とはいえ、戦艦なので負傷者を固定できるようになっていた。



「脱出できたらまた来る。無事でいろよ」



フラガはそのままブリッジに走った。
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トリコ1

いつもと同じ空だった。
オーブの中立コロニー、へリオポリスには続々と地球軍関係者が集結していたが、気づく者はいない。




私はエンジニアとして半年前からこの地で働いていた。
中立のこの地で、地球軍の軍服に身を包んで。



「物資搬入急げ!遅れてるぞ!」



下士官の声が響く。
3年かかった。
この新型宇宙艦アークエンジェルと、その積み荷6機のGがようやくロールアウトとなったのだ。


バードはともかく、ソフト面ではまだまだ問題が山積みなのだが、軍は速く広報にかけ志気向上に利用したがっている。



私は新型MSコスモスに乗り込み、母艦アークエンジェルへと静かに着艦しようとしていた。



もうすぐ、残りのMSのパイロットが到着する。



その護衛の任に着いたのが、士官学校時代の同期ムウ・ラ・フラガ大尉だと耳にしたときから、今日を心待ちにしていた。



同じ釜の飯を食べた仲、というより、もっと特別な感情は、私の心をいつも沸き立たせた。彼は今回ただの護衛だというので、会えない可能性がたかいのだが、近くに彼を感じられるのが嬉しかった。



「どうせ、彼女、いるんだろうし…私は勝手に片思い。もう5年目だわ」



艦長以下士官が乗艦完了したと通信がはいる。



いよいよだ。
半年ぶりにフラガさんに会える!



新造艦のお披露目よりも、自分の研究結果である6体のGの完成(本来、完成には程遠いのだが、軍はそういうことにしておきたがった。)よりも、フラガさんと再び共に過ごせることが嬉しかった。




しかし、悪夢は突然私たちを恐怖のどん底に誘うのだった。




「敵襲!コンディションレッド発令!総員搬入作業を急げ。」



けたたましいアラートが鳴った。その数瞬あとに、艦に凄まじい衝撃が走った。ドッグ内で大規模な爆発が起きたのだ。




爆発音とともに、搬入途中の物資が、兵士たちを押しつぶす。
まだ固定が済んでいなかったものは、まるでおもちゃのように宙に舞った。



押しつぶされる…!





「Gを…早く…」





私の意識はそこで途切れた。









「誰か!誰かいないか!」




ナタル・バジルール少尉が辺りを見回すと、先ほど着鑑挨拶をしていたばかりの上官達の遺体が見えた。




煙も血の臭いに吐き気がする。
ナタルは泣き出してしまいそうな心を押し殺し、生存者を捜索し続けてた。
軍人がこんなところで泣いてはいけない。誇りだけが彼女を動かしていた。




途中、ノイマン曹長ほか、下士官数名と合流できた。少なからずホッとするが、上官たる自分がしっかり彼らを導かなくてはならない。



「他に生存者は」
「格納庫に、ジン中佐がGに乗って入っていました。Gの中なら、生きていらっしゃる可能性が高いです。」

「ジン中佐が…2人私について来てくれ。他の者はブリッジで艦の起動を頼む」



機体とパイロットが無事なら、この状況にも対処しようがある。
宇宙港にはパイロットを積んだ護衛艦も来ているはずだ。必ず助けが来る。



遺体を掻き分けながら格納庫へたどり着いた。様々な物資が散乱しており、次また衝撃がくれば自分たちが、押しつぶされるだろう。
うずくまるように鎮座するMS。早くパイロットを助け出さねばならない。
生きていればの話だったが。



X000コスモス。
ジン中佐の機体だ。




「ジン中佐!いらっしゃいますか!」




叫ぶが返事はない。
警報がけたたましく、人の声なんて届かないのかもしれない。



「ノイマン曹長、ハッチを開けるぞ。手伝え」
「はっ」



外部の緊急脱出用レバーを引くと、中で額から血をながした少女が倒れていた。



「頭をうっているが、生きている。とりあえず救護室…」
「救護室の安全が分かりません!」
「ではブリッジに運ぶ。ここよりはマシだ。引きずりだすぞ!」




ノイマンとトノムラに中佐を担がせ、なんとかブリッジへ移送した。



士官、しかもパイロットが生きていてくれて助かった。
ナタルは胸をなで下ろした。



黒髪の少女は額から大量の血を流しており、切り裂いた布で圧迫止血を試みる。脳に異常があるかもしれない。医者に一刻も早く見せたいが、今できるのはこれだけだ。



ナタルは指揮官席に座り、艦を起動させた。



「まだ通信妨害されている!ザフトの狙いはモルゲンレーテということか!」



ナタルの憤る声に混じり、かすかな、声が聞こえた。



「こちらストライク、地球軍…、応答…願い…」



若い男の声だった。
少なくとも1機は味方が確保したようだ。
合流を急がなければ。




「艦を発進させる。できるな。総員、艦の衝撃に備えよ。アークエンジェル前進微速!」

トリコシナリオ

地球連合事務総長オルバーニ
オルバーニの娘婿ソウイチロウ・ジン
52年 秘密裡にイオリ誕生
   ジン家 長男 次男 イオリの三兄弟。
   虐待されて育つ
58年 6歳でエレメンタリー入学
60年 8歳でコペルニクスに留学 
61年 9歳 アスラン・キラと会っている
62年 10歳 MITに入学
63年 11歳 学士課程修了
64年 12歳 修士課程修了
63年 13歳 地球連邦軍士官学校へ入学
   フラガと出会う
64年 パイロットコースで学ぶ
65年 15歳 卒業,少尉 広報として勤務
   出自を隠し,ナチュラルの宣伝塔になることに苦しむ
   志願兵が増えたので中尉→大尉へガンガン昇進させられる
   MA開発に携わる
69年 17歳 ハルバートンの元でGの開発に取り組む→少佐
70年 月面会議にてオルバーニ家当主 他数人死亡
   祖父オルバーニが発足した組織地球連合事務総長に就任
   血のバレンタイン
   ひたすら開発している。
71年 18歳 世界樹攻防戦にパイロットとして参加。MAに乗る
   第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦に参加。
   月面基地でG開発(奪取したジンの分析等)に励む傍ら
   月面戦線グリマンディ戦線,エンデュミオンにてフラガと再会。
   4年ぶり。→中佐に昇進
   モルゲンレーテ協力の元,ヘリオポリスに研究の場を移す。
   祖父オルバーニとクラインが会談。決裂
72年 19歳 ヘリオポリス襲撃
   最初の襲撃で重症を負い,ナタルに保護される。
   乗機はコスモス。小型のスナイパー機
ヘリオポリス崩壊 →寝ている
アルテミス入港→接待を受ける。父(月司令)と会話。
「お前の役目はその艦を月に届け,少しでも多くのコーディを殺すことだ」
ラクス保護
第八艦隊先遣隊,フレイ父死
ラクスを引き渡す
ハルバートンと合流。→大佐
「イオリは私が娘のように思っている子だ。能力のせいで孤独な日々を送ってきた。その生まれもな。」
イザーク負傷
フレイ 正式に入隊
地球へ降下。キラ負傷。ハルバートン戦死。
オペレーション・ウロボルス強化。 
a)地上における軍事拠点の確保
 b)宇宙港やマス・ドライバー基地制圧による連合軍の地上封じ込め
 c)核兵器、核分裂エネルギーの供給抑止となる「ニュートロン・ジャマー」散布
ビクトリア宇宙港とられる。
アークエンジェル,リビアに降下
バルトフェルドとの戦い
カガリ明けの砂漠と合流。買い出しイベント。
イオリは士官組と物資調達へ。
エンデュミオンの鷹に,連合の姫ですか。
バルトフェルドとイオリ・フラガ邂逅。
街の有志のイベントにて。
バルトフェルドとキラの邂逅。
イザーク バルトフェルドと合流
バルトフェルド隊壊滅
アスラン・ニコル地球へ
アークエンジェル 紅海へ脱出。水上戦。
スカイグラスパーにて支援→イオリ負傷
ザラ隊合流
スカイグラスパーにカガリ。インド洋でカガリ行方不明
マラッカ海峡突破戦
なんとか抜けるが,オーブ近海にてザラ隊の襲撃。オノゴロ島に入港。
治療・開発
オーブ出航→ニコル死亡
マーシャル諸島にてトール戦死,キラMIA
ディアッカを捕虜に。
イオリ,マルキオのことを気にかける。
カガリ アスランを収容
キラ マルキオとプラントへ
マルキオ,オルバーニ譲歩案提出→却下
アークエンジェル,アラスカ ジョシュアに到着
査問会。
キラ フリーダムもらう
フラガ,ナタル,フレイ,イオリ転属
フラガ カルフォルニア
イオリ アラスカへ転属
イオリ,上層部の動きを察知し,アラスカへ戻る。
クルーゼとエンカウント
父に捨てられたかわいそうな娘だ
キラ登場
5/8サイクロプスにてアラスカ壊滅
イオリ,コスモスの故障でフラガとはぐれる→デュエルに保護されカーペンタリアへ。MIA認定
フレイはナタルとともに月に離脱
イオリ,イザークと出会う
ディアッカの話
キラの話
クルーゼと話す
5/15アークエンジェル→オーブに所属
5/17アスラン地上へ
5/25パナマ攻略戦のため,ジブラルタル基地から兵力移動(ザフト)
6/14オーブ大西洋連邦から仲間になれと脅される
カズイら退艦
キラ・アスラン再会。
6/16 アスハ代表死亡
   アークエンジェル・クサナギ,宇宙へ
6/20ナタル・フレイ ドミニオンへ。
6/27 クルーゼ本国へ召還。イオリも同行。
   イザーク母にあう。
7/1 イオリ,バルトフェルドに引き渡され,エターナルへ。アスランも一緒。
7/3 ドミニオンに3バカとアズラエル
7/5 メンデルにて3隻合流
  フラガと再会。
7/7 クルーゼエターナル追撃
7/12 ドミニオンとメンデルで戦闘。
   キラ,フラガ,イオリ,クルーゼと対面。
   出生の秘密を知る。
7/13 クルーゼよりアズラエルへ ニュートランジャマー・キャンセラー譲渡
   ヴェサリウス撃沈。アデス死亡
7/24 地球軍 ジャマーキャンセラー搭載ミサイルとピースメーカ隊にてジブラルタルに侵攻。奪取
9/11 エルビス作戦
   父,プラント総攻撃作戦発動。
 9/23 ポアズ攻略戦 ピースメーカ隊による核攻撃
9/26 ヤキンドゥーエ攻防戦
   核攻撃を阻止
「イザーク,あなたにも大切なひとがいるんでしょ」
「戦後に会おう」
背中を預けて戦う
ジェネシス起動。
翌日 ジェネシス第二射。プトレマイオス基地破壊。月本部壊滅。父死亡
ドミニオン内でナタル撃たれる。フレイの手によって退艦。
アークエンジェルによりドミニオン撃破。アズラエル死亡
パトリックザラ 部下により射殺。
プロヴィデンスに乗ったクルーゼと戦闘
ジェネシス崩壊のガンマ線に触れ,機体が崩壊。
ニュータイプのアレで,イオリと交信。宇宙を浮遊しているクルーゼを保護し,帰還。
ヤキンドゥーエは自爆。ジェネシスもジャスティスにより破壊。
終戦
終戦後
地球軍は復興軍となり,各地の復興と治安維持を行う。
イオリは宣伝塔となり,復興軍の代表となる。
フラガはイオリを支え,ボディーガード兼側近になる
クルーゼはイオリの元で「義弟」として治療に励み,心の安定を得ようとしている。レイをプラントより呼び寄せ,「家族」を与えるチャレンジをする。
フレイはオーブにいたが,クルーゼの声が心地よいとの理由で(本当は居場所が欲しかった)クルーゼと同居する。
アスカガ,キララク
ナタルとノイマン
ミリアリアとディアッカ
イザークとマヤ
マリューとバルトフェルド
それぞれくっつく。
数年後,妊娠したイオリが育児休暇。
オーブで産むため,カガリを頼る。
クルーゼに子どもを託しながら,政治家として地球の復興と平和のため心血を注ぐ。
種デスはこない。
   

青い薔薇を彼方に(FF7 ルーファウス)

青い薔薇を彼方に(ルーファウス) 
 私には恋焦がれてやまぬ女が居た。神羅カンパニーの鬼門、開発部に属する変わり者の女。もの珍しさに近づいて、一蹴されたときはとても世界を信じられなかった。当時の私は、世の女で(もしくは男も)自分に靡かぬものはいない、と信じていたのだ。地位も、名声も、金も、顔も身体だって、完璧だと自負してきた私には途轍もないショックで、大人気なくも数日寝込んでしまうほどであった(莫迦だ)
 彼女は名をリリスと云い、理知的な茶髪を高くした姿が白衣に非常に映えていた。声をかけたきっかけは、若い(しかも美しい)女性が休日にまで出勤して、研究室に篭っているのを発見し、一体何が彼女をこんなにも一途に夢中とさせているのだろうと興味をもったからだった。美女が自分以外に夢中になっているということが許せなかったというのもある。なんて傲慢な話だろう。
「何をそんなに真剣になっているんだ?折角の休日だろう」
「お仕事じゃないんです。道楽。趣味なの。わかる?」
 リリスは顕微鏡から目を離すこともせず、副社長である私に返事をした。顔を見ていなかったから、誰だかわかりませんでした、なんて通じるとは思ってないだろう。何しろ入室する際にわざわざ「ルーファウスだ」と告げて入ってきたのだから。
「何が君をそこまで夢中にさせるんだ?」
「副社長こそ変人にいつまでも構ってたら、大勢の彼女たちが逃げてきますよ」
「・・・私のことはいいんだよ。教えてくれないのか?」
 秘密です、と空気に向かって話すようにそっけない返事をする彼女に(僅かにだが)業を煮やし、ここぞとばかりに職権を利用させてもらうことにした。普段わたしはそんな回りくどいことなどしないものだが、こうも頑なな、変人に対してなら使ってもいいなと判断した。子供っぽい態度には子供っぽい仕返しだ。(目には目をとかいうだろう)
「神羅の設備でなにかしているんだ。監査室にばらされたくなかったら吐くんだな。これでも一応副社長なんだ。見逃せないな」
「・・・左遷されてるくせに」
「ほお」
 リリスはひどく嫌そうな表情で振り向くと、その大きな瞳に私の顔を写した。それはとても快感的な瞬間であった。一種、電流が走ったような感覚に陥り、その挑戦的で、懐かないネコのような瞳に釘付けとなった。初めてこちらを見つめる彼女のあまりに無垢な視線に毒気を抜かれてしまったのかも知れなかったが、たしかにその瞬間が恋だった。
「薔薇です。薔薇つくってるんです副社長様。青いバラ見たいんです」
「薔薇、か。いい趣味してるな意外と。もっと変なものでも造ってるんじゃないかと思ってたんだが・・・」
「喧嘩うってるんですか」
「いやすまない。成功を祈っているよ」
変人といえど、美女とバラ。なんて美しい光景だろうか。
 暫く会わぬ時間が過ぎ、久しぶりに監査で訪れた開発部の彼女のデスク(と思われる物置)には紫をした薔薇が飾られていた。一輪挿しが無造作においてあり、ブルーパープルの花弁をした其れが活けられていた。
「紫の薔薇か。あれを思い出すな。紫の薔薇の人は最後どうなったのだったか」
「わたしまだ最後まで読んでないんです。云わないで下さいよ!」
 懐かしいくらい昔に読んだマンガの登場人物の名を呟いてみると、珍しくリリスから食いついてきた。笑いをこらえきれず、ぷっと吹き出してしまう。なんだこの女、マンガ好きなのか。あの休日の研究室以来、全く接触のなかった彼女が、あの日と同じように話してくれたことに嬉しさを覚えた。
「ほお、あれ好きなのか。うちに確か、DVDがあったが」
「貸してください!」
「明日副社長室においで。親父が好きでな。俺も一通り見たんだが、面白かった。貸してやるよ」
「ありがとうございますっ」
 少しの間そのマンガのことで話していると、入り口に控えていた秘書代わりのツォンがアイコンタクトを送ってきた。男と視線のやりとりなんぞしたくはなかったが、奴の瞳は(いいかげんにしろこのバカ副社長。こっちは時間がねえんだよ)と云ってるように見えた(おそらく当たっている)。ツォンを無視してリリスとの会話を続行させることにした。なにぶん久方ぶりの会話なのだ。
「ところで、紫の薔薇ができたのはわかったが、君の目標は青い薔薇だったろう。出来たのか?」
 彼女は顔を曇らせ、とても哀しそうな表情をした。答えなどきかずとも、研究の成果は分かってしまったのだが、律儀に彼女は問いに答えた。
「いいえ、できないんです。紫まではできるんだけど、蒼にはなってくれない。青い薔薇がみたいのに、どうしてだろうって。そしたら、薔薇の遺伝子には、蒼を発色させる機能が根本的に欠落していることがわかって、でもどうにかなるかいやどうにかさせるんだって色々試したりしたんですけど、この紫が限界でした」
 ワンブレスで一気に喋ったリリスは、大きく肩で息をした。さすがはインテリ系引きこもり研究者だ。体力がない。
「もし・・・私が青い薔薇をつくったとしよう。そしたら、夕食に付き合ってくれないか」
「おごりですか」
「もちろんだよ・・・」
「じゃあ、いいですよ。たのしみにしてます。わたしはもう諦めちゃったけど、ルーファウスさん。青い薔薇の花言葉しってますか?不可能っていうんですよ。だから、夕食も不可能ってわけじゃなくなると思います」
それから私は一大プロジェクト(もちろん個人的な)として各地より選りすぐりの研究者を集め、「青い薔薇プロジェクト」なるを組んだ。全ては彼女と夕食に行きたい思い一心である。が、それらは上手くいかず、集めた植物学者たちにもそれはむりなことだと諭された。
私の莫迦な行いは、カンパニー内でも有名になり、からかわれたりもしたが、限りなく蒼に近い薔薇の栽培に成功したときは、社員一同(からかい半分で)拍手を呉れた。しかしその色は、かつて彼女が一輪デスクに差していたあの薔薇と同じ色合いであり、私の心は沈むばかりだった。
そんなとき、秘書より連絡が入った。開発部のリリスがアポを求めていますがいかがしますか・と。思わず了承してしまったが、次の瞬間にはしまったと思った(すでに遅かったが)
「ルーファウスさん。これ、DVD、長い間ありがとうございました」
「ああ・・・還さなくてもいいといっただろう」
「ねえ、薔薇、出来たってきいたんです。見せてくれないんですか」
「これは、君の求めた薔薇とは掛け離れている。見せられないさ」
「わたしのために、作ってくれたんですよね。みせてください」
リリスにしつこく詰め寄られ、私はついに、出来損なった薔薇を差し出した。
私の指は、悪あがきのために青く染まっていた。
「・・・白薔薇を、絵の具で染めただけの偽物だ」
彼女の手に奪われた一輪の薔薇は、秘書からの連絡の後、急いで私が自ら色を塗った薔薇だった。子供が使うような絵の具しか用意できず、白かった花弁はまばらなブルーに染まっている。私は恥ずかしさに目を瞑り、椅子に背を任せた。リリスはなにも云わない。呆れているのだろうか。
私は自分がこんなにも情に篤い人間であったのだとそのときまで気付かなかった。他人なんて、邪魔だと思えばいくらでも消してきたし、必要と思えば屹度父親ですら殺すだろう、そんな男だ。女は腐るほど集まってくるし、こうしてたった一人のしかも変態じみた女に執着するなんて信じられなかった。
目をあけると、リリスは笑っていた。初めて見る笑顔だ。
「これがいいです。こんな素敵な薔薇、みたことありません。ありがとうルーファウスさん。これが見たかったんです。とても嬉しいです。ありがとうございます。感動しました。なにがどう嬉しいかって、あなたの汚れた指とか、まばらな青とか、そんなのばっかりなんですけど、これ以上ないくらいに嬉しいです。」
「・・・こんなもの、嬉しいのか?」
「はい!DVDより嬉しい」
「じゃあ・・・夕食に、今晩付き合ってもらえるだろうか」

雨に閉ざされた秘密 銀魂夢

今どき立ち姿がきれいな女は珍しい。
すっと伸びた背筋は細くて頼りない。そのくせ凛としてみえるんだ。
こいつは一筋縄でいく女じゃないなと、生徒相手になに考えてんだ俺。
 
 
雨に閉ざされたひみつ 
 
 
「あれ、どうしたの由良ちゃん。休日出勤なんて俺と同じくらい真面目だなぁ。」 
 
 
通学鞄は雨に色が滲んでいた。
よくみると髪からこぼれる水滴に、セーラーの襟が色を滲ませている。外は雨か。3日前にみた天気予報では、たしか休日は一日中晴れるはずだった。窓をみて初めて音が耳に入った。俺の聴覚もだいぶん役立たずだ。そういえば雨のにおいがする。
 
 
「忘れ物とりにきたついでに少し勉強してこかなぁ、と思ったんだけど教室誰もいなくて。」
「寂しくなって俺に会いに来たの?」
「帰るところです。」
「まあまあ、そう言わないで少し寄ってきな。お菓子もあるよ。あ、そうだ由良ちゃんお前だけだぞ面談やってないの。」 
 
 
由良は空を少しみつめて溜め息をついた。
あからさまに盛大な溜め息。雨が嫌なのか俺が嫌なのか、はたまた面談が嫌なのか。
 
 
「…イチゴポッキーが食べたい。」 
 
 
大量にあるぞ!
 
 
*
 
 
タオルを渡すと髪を押さえるように水気をとっていった。僅かに傾けた首筋がセーラー服に色っぽいなとか、先生はそんなこと考えませんとも。セーラー服はAVで補完計画だ。 
 
 
「それでなに?由良ちゃん地元受けるんだ。」
 
 
とりそこなっていた調書に進路希望先を書き込んだ。俺の汚い文字をみて、由良はあからさまに眉をしかめる。なにか嫌われるようなことしただろうかと思うけれど、きっと彼女のような娘は俺のような駄目な大人が嫌いなんだろう。彼女はまだ子供で、潔癖に生きているふりをしている。
伸ばされた背中。
あれは一種の自己表示なんじゃないだろうか。わたしは真っ直ぐに実直にいきているわよ、って。
 
 
「あそこレベル高いよね。国立だし。」
「今年はうちのクラス多いな。たしか土方と桂もここだよ。あと高杉もか。優秀だねぇ。」
「は?高杉くん?そういえば最近学校ちゃんと来てるね。」
「そうそう、人は見掛けによらないんだぞ~。」 
 
 
今までの模試の結果をとりだして、よくよく眺める。彼女の希望する大学は難関校といわれる部類で、どうしてこんな難しい道を選ぶのか俺にはよく分からなかった。分かるような気もしたけど、やっぱり俺としては人生苦しむべきじゃないと思ってるんだよね。受験って苦しいのよ。ずっと昔のことを思い出す。そういや俺も受験したっけ。
 
 
「ま、由良ちゃんなら大丈夫でしょう。このままゆるめに頑張ってね。」
「は~い。」 
 
 
由良はイチゴポッキーをかじりながら視線だけ外をみる。長いまつげが弧を描いて上をむいているのがわかった。案外大きな瞳は、無邪気な印象。まだ子供だ。
人は見かけによらない。
自分は表裏も少なく、だめな大人として生きているけれど、それでも生徒に見せない顔がある。この子供と大人のはざまにいる娘は、いったいどんな顔をもっているのか。意地悪な好奇心だと思った。この子が必死に隠している、一人の人間、一人の女としての顔を覗いてみたいというのは、大人のいやらしい悪趣味だ。
 
 
「まだ、雨降ってる。」
「先生のお菓子食べ尽くさないなら、まだいてくれていいぞ。」 
 
 
食べ尽くしても、いてもいいよ。
 
 
人形みたいな顔してるから、芸術鑑賞のつもりでもうすこし眺めさせてくれないかねえ。ポッキーを口内へ導くように薄い唇が器用に動いた。内側にピンク色のチョコが溶けて残っている。
俺はオードリーよりマリリン派なわけで、薄いより厚い唇が好みなんだけれど、このときばかりはこのボリュームにかける唇になんだかムラムラした。
女子高生っていいよね。若さと紙一重に幼さが同棲している。こいつの場合は処女性までも。どうして処女だと思うかって、こいつはまだ男に幻想抱いてる潔癖症の女だからだ。 
 
 
「…由良ちゃんさぁ、」
「え、ごめん、食べ過ぎ?」
「いやね、あの大学選んだのって、土方と一緒だから?」 
 
 
一瞬、表情から幼さが消えてすぐに元通りになる。かおを作るのが上手な女だ。自分がまわりからどういう風にみられていて、どういう風に振舞うのを望まれているか理解している。きっとすべてが計算ずくなんだ。しゃべりかたや笑うタイミング、伏せる瞼とか。無意識にしろそうでないにしろ。
 
 
「違います。わたし昔から行くならあそこって決めてたし、先生が思ってるような関係じゃないですから。」
「知ってる?由良ちゃん嘘つくとき丁寧語になるの。」 
 
 
黒目がちな瞳が俺を捕らえる。引きずり込まれそうになる気迫に怯えた。美人は真顔でも美人だが、整ってる分恐ろしい。いままでそうやって大人を騙して来たんだろうけど、中途半端に大人になった銀八先生には通用しないんだ。 
 
 
「知らなかった。」
「・・・冗談だよ。俺そこまでお前のことしらねえもん。なんにしても、お前が自分で決めたんなら問題ない。」
 
 
由良はふわり、唇で笑う。
 
 
「嘘つき。先生はわたしのこと、よく知ってるでしょ。」
「え、おいおい、大人をからかうんじゃありませんよぉ。」
「雨あがった。また明日、先生。」 
 
 
生徒にあしらわれてるんじゃあ、俺の教師業もあがったりだ。事実、俺はあいつのことを良く知っていたから。 

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