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戦国神子ベース1
信長様が龍神を呼び出すという。上洛を果たした魔王は国の守護神たる龍を降ろすと言い放った。神仏すら恐れぬというのに龍を信じているのだろうかと不思議に思ったが、決戦の前には熱田神宮に参る癖があったことを思い出した。熱田の神は日本武尊、すなわちヤマタノオロチであった。
「古来より京は龍神に守られているという。草薙剣を持ったものが天下を手にするのだ。」
「しかし…龍神などと、私にはただの伝承としか思えません」
「京で、この信長が龍神を降ろした。この事実が重要なのだ。儀式を続けよ」
「なに…ここ…神社?」
「なんと!異形の娘が!」
「なに…みんな、着物なんかきて…ていうか、どちら様でしょう…」
「我は織田弾正忠信長。神子よ、名はあるか?」
「橘真矢…織田信長?って、戦国時代の織田信長?わたしさっきまで学校にいたんだけど…」
「橘…公家の橘家の者か?」
「公家?いえ、一般庶民の出身ですけど…」
「奇妙な着物を着ておる。南蛮物にしても見慣れぬ作りよ」
「これは学校の制服で、…ねえ、本気?本当に織田信長なの?ドッキリとかじゃなくて?」
「信長様は龍神を召喚する儀式を行っていたのです。そしてあなたが現れた。伝承には龍神の神子が世を救ったとあります。あなたが当代神子のようです」
「み、神子…龍神…なにそれ…」
「神子様!」
「別室に寝かせよ。蘭、世話を」
「はい」
「神子様、お目覚めですか?お加減はいかがですか」
「あ、やだ、夢じゃなかった」
「私は森蘭丸と申します。信長様の小姓をさせていただいております。神子様のお世話を仰せつかりました。なにぶん戦所帯にて、女手がありませんので、私でご勘弁下さい」
「森蘭丸…時代劇だわ」
「時代劇?」
「いえ、いいの、ありがとう蘭丸くん。わたし全然状況が分かってないけど、ちょっと、外がみたいな。諦めもつくかも」
「宮の中ですが、お庭と街並みがご覧になれます」
「ああ…空が広いわ…ビルがない…」
「神子様、信長様のもとへお連れしたいのですが」
「ああ、はい、分かりました。連れてって下さい」
「目覚めたか。神子よ」
「あの…その神子っていうのは…」
「龍神の神子のことです。信長様は龍神を呼び出して…」
「ああはい、聞いたような…でもわたし特に特技もなにもありませんよ」
「お主は我々の目の前で、神体よりまかりでた。龍神の神子じゃ」
「神子でなくとも良い。わしに龍神が神子を遣わしたと、諸国に広まれば良い。お主にはなにも求めぬ」
「そうですか、わたし本当に、この時代?のこともなにも知らないし、なにも役には立たないと思いますけど…」
「よい。着物と世話人を与える。光秀、お前が神子を守れ。死なせること許さぬ」
「さあ神子殿、まずはお着替えください。そのお着物は、肌が出すぎです」
「そうですね!着替えます。あ…着物の着方が分からないんですけど…」
「着方、ですか…普通に着ていただければよいのですが」
「着物自分で着たことないんです…」
「では…私がお世話させていただきます。目は、瞑っておりますので、その」
「はい!すみません!早く覚えるので!」
「古来より京は龍神に守られているという。草薙剣を持ったものが天下を手にするのだ。」
「しかし…龍神などと、私にはただの伝承としか思えません」
「京で、この信長が龍神を降ろした。この事実が重要なのだ。儀式を続けよ」
「なに…ここ…神社?」
「なんと!異形の娘が!」
「なに…みんな、着物なんかきて…ていうか、どちら様でしょう…」
「我は織田弾正忠信長。神子よ、名はあるか?」
「橘真矢…織田信長?って、戦国時代の織田信長?わたしさっきまで学校にいたんだけど…」
「橘…公家の橘家の者か?」
「公家?いえ、一般庶民の出身ですけど…」
「奇妙な着物を着ておる。南蛮物にしても見慣れぬ作りよ」
「これは学校の制服で、…ねえ、本気?本当に織田信長なの?ドッキリとかじゃなくて?」
「信長様は龍神を召喚する儀式を行っていたのです。そしてあなたが現れた。伝承には龍神の神子が世を救ったとあります。あなたが当代神子のようです」
「み、神子…龍神…なにそれ…」
「神子様!」
「別室に寝かせよ。蘭、世話を」
「はい」
「神子様、お目覚めですか?お加減はいかがですか」
「あ、やだ、夢じゃなかった」
「私は森蘭丸と申します。信長様の小姓をさせていただいております。神子様のお世話を仰せつかりました。なにぶん戦所帯にて、女手がありませんので、私でご勘弁下さい」
「森蘭丸…時代劇だわ」
「時代劇?」
「いえ、いいの、ありがとう蘭丸くん。わたし全然状況が分かってないけど、ちょっと、外がみたいな。諦めもつくかも」
「宮の中ですが、お庭と街並みがご覧になれます」
「ああ…空が広いわ…ビルがない…」
「神子様、信長様のもとへお連れしたいのですが」
「ああ、はい、分かりました。連れてって下さい」
「目覚めたか。神子よ」
「あの…その神子っていうのは…」
「龍神の神子のことです。信長様は龍神を呼び出して…」
「ああはい、聞いたような…でもわたし特に特技もなにもありませんよ」
「お主は我々の目の前で、神体よりまかりでた。龍神の神子じゃ」
「神子でなくとも良い。わしに龍神が神子を遣わしたと、諸国に広まれば良い。お主にはなにも求めぬ」
「そうですか、わたし本当に、この時代?のこともなにも知らないし、なにも役には立たないと思いますけど…」
「よい。着物と世話人を与える。光秀、お前が神子を守れ。死なせること許さぬ」
「さあ神子殿、まずはお着替えください。そのお着物は、肌が出すぎです」
「そうですね!着替えます。あ…着物の着方が分からないんですけど…」
「着方、ですか…普通に着ていただければよいのですが」
「着物自分で着たことないんです…」
「では…私がお世話させていただきます。目は、瞑っておりますので、その」
「はい!すみません!早く覚えるので!」
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趙雲1
あれは不思議な感覚だった。雨の降りしきる視界の悪い夜だった。
血まみれの女性が視界に入った。重傷だが、まだ生きていたので、保護した。それだけだったのに、血の気のない青白い顔が頭から離れなかった。
虎牢関の前で、馬上の彼女をみたことがあった。戦場に女人を連れてきて、なおかつ剣を持たせるなんて不届きだと最初は思ったが、彼女の戦いに目を奪われた。それは勇気ある剣士だった。
まさか神子を保護することになろうとは考えても見なかったが、苦しむ彼女を楽にしたい一心で手当てを施した。前線の野営に、彼女を頼める者もなく、周りの兵には女性を保護したことは伏せておいた。
神子のびしょ濡れの服を脱がせる。湯で濡らした布で体を拭き、髪についた泥を落とすと、それが艶やかな黒髪だと分かった。背中にできた大きな傷に薬を塗り、包帯を巻いた。出来るだけ体を見ないように、触れないようにと頑張ったが、白い肌はきっと抱けばすべすべと心地よいだろう。柔らかな感触がずっと手に残っていた。
「あ…あれ、わたし…」
「!目が覚めましたか」
あの夜から数日、神子は眠り続けていた。まだ傷が痛むのだろう、神子は苦痛に顔を歪めた。
「安静にしていてください。まだ傷が治っていません。私は劉備軍の趙雲と申します。ここは私の幕です。虎牢関の外れであなたが倒れていたので、お連れしました」
神子は安堵の表情を見せた。少なからず信頼してくれたのだろう。ふっと、肩の力が抜けた様子に、どれだけの不安で戦場に立ったのだろうと胸がいたんだ。女人が剣を持ち、戦うなんて男の何倍も恐ろしい思いだろう。
「暁の神子殿とお見受けいたします。何故あのような場所で…」
「呂布と…呂布と戦っていたんです。別働隊として動いていたら、運悪く出会ってしまって…わたしを捕まえようとするので、必死に逃げて…」
「そこから先は覚えてません」
「そうでしたか。お辛い思いをされたことでしょう。早くお国もとと連絡をとって差し上げたいのですが、なにせ戦の最中です。いましばらくお待ちください。きっと無事にお返しします」
「ありがとうございます趙雲殿。わたし、真矢っていいます。」
神子はほころぶような笑みをみせた。ツボミが花ひらくような、心の美しい者だけができる柔らかい笑みだ。きっと曹家では大切に大切に愛されていたのだろう。趙雲は憧れのような淡い感情を抱いた。
日々、死と隣り合わせの戦場で暮らす趙雲は、女性にはこのように笑っていてほしいという理想のようなものがあった。豪華な衣服を纏っておらずとも、内面から輝くような温かい笑顔を守りたいといつも漠然と思い浮かべていた。
「しばらくはここで傷を癒やしてください。申し訳ありませんが、私以外、あなたがここにいることを知りません。男所帯ですので…その…不届き者がいないとも限りませんので…」
「…はい。幕から出ないようにします」
「狭苦しいところで申し訳ありません」
「とんでもない!こんな…保護していただいて…手当てまで…」
「いえ…あの、出来るだけ見ないようにはしているのですが、その…すぐに準備して包帯をとりかえます!少々お待ちを!」
真矢は趙雲の慌てように首をかしげたが、着ている上着の中をみて納得した。素肌に包帯が巻いてある。部下にも自分の存在を秘密にしているのだ、つまり趙雲が包帯を巻いてくれたことになる。そういえば、泥まみれで行き倒れた割に髪も体も清潔だ。申し訳ない気持ちと、恥ずかしい、情けない気持ちで真矢の顔も真っ赤に染まった。
「神子殿、薬をお持ちしました。その、灯りを落としますゆえ、傷を見せていただけますか。傷口が膿むといけませんから」
「ごめんなさい、お気を遣わせてばっかりで…あの、趙雲殿は私になにかするような方じゃないって、よく分かります!こんなに良くして下さってて、すごく感謝してるんです。恥ずかしいですけど、大丈夫です。自分ではできないし、どうかお手当よろしくお願いします」
「はっ、では、失礼します」
趙雲は部屋の灯りを最低限に絞り、真矢の上着をはいだ。血が乾いて、包帯をほどくたびにつらそうな声が漏れる。意識がある分、昨夜より辛いだろう。趙雲は濡らした布を傷口にあて、包帯をふやかしながらゆっくりとすすめた。ついでに身体の汗を拭ってやると、真矢は恥ずかしそうに俯いた。視線を合わせられない。女人の肌を見るのは初めてではないが、今までのどんな女とも違って見えた。火の光が揺れて、神子の肌がぼんやりと浮かび上がる。
これは、失敗だったなと趙雲は思った。光の下のほうがまだ健全だったかもしれない。邪な考えを神子に悟られぬよう、平静を装っていた。
「薬がしみます。声を出さないようにお気をつけください。」
「は、い」
神子はぐっと身体をかたくして、痛みをこらえた。弓なりにそる背中が細く頼りなく、趙雲はこの人の痛みを自分が代わってやれないことがつらかった。
「傷は痕も目立たないと思います。さすが呂布というべきか、切り口が鮮やかです。」
「傷なんて…」
「女人の肌を傷つけるなんて許せない…戦の犠牲になるのはいつも弱き者です。守るために戦うはずなのに」
「趙雲殿は…誰かを守りたかったんですね」
「ええ、そうです…守れなかった悔しさが忘れられません」
「優しいひと」
「失礼しました。…私は隣におりますので、ゆっくりお休みください」
神子の言葉が頭から離れなかった。守りたかったものと、自分が今日も奪っているもの。今斬った兵士にも大切な人がいただろう。無事を祈る妻や母親がいただろう。人を切る度に、平和のために戦う度に、人を殺すという矛盾を抱える。心に迷いがあれば、明日死ぬのは自分かもしれない。自分が死んでは劉備の築く平和の世が遠くなる。結局戦うことしか自分には出来ないし、自分がもし死んだときに悲しむ人を増やしたくないから、妻を持つ気にもならない。趙雲は自分のことを誠実だと評価していたが、優しいかといわれると疑問があった。しかし神子の言葉を聞いたとき、体に電流が走った。自分はずっと、優しくありたかったのだ。
「お帰りなさい趙雲殿。お怪我ありませんか?」
「はい、神子殿も傷の具合はいかがですか?」
「最初に比べると痛みも減ってきました。早く動きたいくらいです」
「お腹がすいたでしょう。多めに用意してもらいました。一緒に食べましょう」
「数日中に本隊と合流できそうです。そうしたら護衛と世話役をお付けできます。連合軍にも劉備殿から知らせを送っていただけるようにお願いするつもりです」
「趙雲殿とは…お別れなんですか?」
「神子殿?」
「あ、いえ、寂しいなって思って…」
「毎日お見舞いに参ります」
「すみません、なんだか心細くて、甘えすぎですね私」
「いえ!嬉しいのです!その、私は女人にどのように接すればいいのかよく分からず…私でよければ、もっと頼っていただけたら、嬉しいのです」
「わたしが、神子だから、優しくしてくれるんですか?」
「そんな!神子殿、私は、あなたがあなただからお守りしたいと思うんです。神子だからあなたは清浄なのかもしれないが、そのお心の美しさはあなた自身のものです…」
「わたし、自分が本当にみんなのいう神子ってやつなのか、分からないんです。特別な力なんかないし…だから、もし、神子じゃなかったら、みんなの期待に応えられないことがあったら、申し訳なくて」
「不安にさせてしまっていたんですね。神子殿…私はあなたは暁の神子だと感じます。しかし、もしそうでなかったとしても、あなたがあなたであることに変わりはありません。むしろ、神子でないほうが…私は…」
「え?」
「神子は戦場へ行く定めと聞きます。あなたが只人ならば、戦から遠い場所に守っていられる…大切に、危険から遠ざけて…慈しみたいと思うのです」
「そんな…そういうことは好きな女性に言ってあげてください。きっと嬉しいと思います」
「好きな女性…」
「そんなこと言われたら勘違いしちゃいますよ」
「あなたは、ひと目みたときから、私の女神です」
「え、趙雲殿」
血まみれの女性が視界に入った。重傷だが、まだ生きていたので、保護した。それだけだったのに、血の気のない青白い顔が頭から離れなかった。
虎牢関の前で、馬上の彼女をみたことがあった。戦場に女人を連れてきて、なおかつ剣を持たせるなんて不届きだと最初は思ったが、彼女の戦いに目を奪われた。それは勇気ある剣士だった。
まさか神子を保護することになろうとは考えても見なかったが、苦しむ彼女を楽にしたい一心で手当てを施した。前線の野営に、彼女を頼める者もなく、周りの兵には女性を保護したことは伏せておいた。
神子のびしょ濡れの服を脱がせる。湯で濡らした布で体を拭き、髪についた泥を落とすと、それが艶やかな黒髪だと分かった。背中にできた大きな傷に薬を塗り、包帯を巻いた。出来るだけ体を見ないように、触れないようにと頑張ったが、白い肌はきっと抱けばすべすべと心地よいだろう。柔らかな感触がずっと手に残っていた。
「あ…あれ、わたし…」
「!目が覚めましたか」
あの夜から数日、神子は眠り続けていた。まだ傷が痛むのだろう、神子は苦痛に顔を歪めた。
「安静にしていてください。まだ傷が治っていません。私は劉備軍の趙雲と申します。ここは私の幕です。虎牢関の外れであなたが倒れていたので、お連れしました」
神子は安堵の表情を見せた。少なからず信頼してくれたのだろう。ふっと、肩の力が抜けた様子に、どれだけの不安で戦場に立ったのだろうと胸がいたんだ。女人が剣を持ち、戦うなんて男の何倍も恐ろしい思いだろう。
「暁の神子殿とお見受けいたします。何故あのような場所で…」
「呂布と…呂布と戦っていたんです。別働隊として動いていたら、運悪く出会ってしまって…わたしを捕まえようとするので、必死に逃げて…」
「そこから先は覚えてません」
「そうでしたか。お辛い思いをされたことでしょう。早くお国もとと連絡をとって差し上げたいのですが、なにせ戦の最中です。いましばらくお待ちください。きっと無事にお返しします」
「ありがとうございます趙雲殿。わたし、真矢っていいます。」
神子はほころぶような笑みをみせた。ツボミが花ひらくような、心の美しい者だけができる柔らかい笑みだ。きっと曹家では大切に大切に愛されていたのだろう。趙雲は憧れのような淡い感情を抱いた。
日々、死と隣り合わせの戦場で暮らす趙雲は、女性にはこのように笑っていてほしいという理想のようなものがあった。豪華な衣服を纏っておらずとも、内面から輝くような温かい笑顔を守りたいといつも漠然と思い浮かべていた。
「しばらくはここで傷を癒やしてください。申し訳ありませんが、私以外、あなたがここにいることを知りません。男所帯ですので…その…不届き者がいないとも限りませんので…」
「…はい。幕から出ないようにします」
「狭苦しいところで申し訳ありません」
「とんでもない!こんな…保護していただいて…手当てまで…」
「いえ…あの、出来るだけ見ないようにはしているのですが、その…すぐに準備して包帯をとりかえます!少々お待ちを!」
真矢は趙雲の慌てように首をかしげたが、着ている上着の中をみて納得した。素肌に包帯が巻いてある。部下にも自分の存在を秘密にしているのだ、つまり趙雲が包帯を巻いてくれたことになる。そういえば、泥まみれで行き倒れた割に髪も体も清潔だ。申し訳ない気持ちと、恥ずかしい、情けない気持ちで真矢の顔も真っ赤に染まった。
「神子殿、薬をお持ちしました。その、灯りを落としますゆえ、傷を見せていただけますか。傷口が膿むといけませんから」
「ごめんなさい、お気を遣わせてばっかりで…あの、趙雲殿は私になにかするような方じゃないって、よく分かります!こんなに良くして下さってて、すごく感謝してるんです。恥ずかしいですけど、大丈夫です。自分ではできないし、どうかお手当よろしくお願いします」
「はっ、では、失礼します」
趙雲は部屋の灯りを最低限に絞り、真矢の上着をはいだ。血が乾いて、包帯をほどくたびにつらそうな声が漏れる。意識がある分、昨夜より辛いだろう。趙雲は濡らした布を傷口にあて、包帯をふやかしながらゆっくりとすすめた。ついでに身体の汗を拭ってやると、真矢は恥ずかしそうに俯いた。視線を合わせられない。女人の肌を見るのは初めてではないが、今までのどんな女とも違って見えた。火の光が揺れて、神子の肌がぼんやりと浮かび上がる。
これは、失敗だったなと趙雲は思った。光の下のほうがまだ健全だったかもしれない。邪な考えを神子に悟られぬよう、平静を装っていた。
「薬がしみます。声を出さないようにお気をつけください。」
「は、い」
神子はぐっと身体をかたくして、痛みをこらえた。弓なりにそる背中が細く頼りなく、趙雲はこの人の痛みを自分が代わってやれないことがつらかった。
「傷は痕も目立たないと思います。さすが呂布というべきか、切り口が鮮やかです。」
「傷なんて…」
「女人の肌を傷つけるなんて許せない…戦の犠牲になるのはいつも弱き者です。守るために戦うはずなのに」
「趙雲殿は…誰かを守りたかったんですね」
「ええ、そうです…守れなかった悔しさが忘れられません」
「優しいひと」
「失礼しました。…私は隣におりますので、ゆっくりお休みください」
神子の言葉が頭から離れなかった。守りたかったものと、自分が今日も奪っているもの。今斬った兵士にも大切な人がいただろう。無事を祈る妻や母親がいただろう。人を切る度に、平和のために戦う度に、人を殺すという矛盾を抱える。心に迷いがあれば、明日死ぬのは自分かもしれない。自分が死んでは劉備の築く平和の世が遠くなる。結局戦うことしか自分には出来ないし、自分がもし死んだときに悲しむ人を増やしたくないから、妻を持つ気にもならない。趙雲は自分のことを誠実だと評価していたが、優しいかといわれると疑問があった。しかし神子の言葉を聞いたとき、体に電流が走った。自分はずっと、優しくありたかったのだ。
「お帰りなさい趙雲殿。お怪我ありませんか?」
「はい、神子殿も傷の具合はいかがですか?」
「最初に比べると痛みも減ってきました。早く動きたいくらいです」
「お腹がすいたでしょう。多めに用意してもらいました。一緒に食べましょう」
「数日中に本隊と合流できそうです。そうしたら護衛と世話役をお付けできます。連合軍にも劉備殿から知らせを送っていただけるようにお願いするつもりです」
「趙雲殿とは…お別れなんですか?」
「神子殿?」
「あ、いえ、寂しいなって思って…」
「毎日お見舞いに参ります」
「すみません、なんだか心細くて、甘えすぎですね私」
「いえ!嬉しいのです!その、私は女人にどのように接すればいいのかよく分からず…私でよければ、もっと頼っていただけたら、嬉しいのです」
「わたしが、神子だから、優しくしてくれるんですか?」
「そんな!神子殿、私は、あなたがあなただからお守りしたいと思うんです。神子だからあなたは清浄なのかもしれないが、そのお心の美しさはあなた自身のものです…」
「わたし、自分が本当にみんなのいう神子ってやつなのか、分からないんです。特別な力なんかないし…だから、もし、神子じゃなかったら、みんなの期待に応えられないことがあったら、申し訳なくて」
「不安にさせてしまっていたんですね。神子殿…私はあなたは暁の神子だと感じます。しかし、もしそうでなかったとしても、あなたがあなたであることに変わりはありません。むしろ、神子でないほうが…私は…」
「え?」
「神子は戦場へ行く定めと聞きます。あなたが只人ならば、戦から遠い場所に守っていられる…大切に、危険から遠ざけて…慈しみたいと思うのです」
「そんな…そういうことは好きな女性に言ってあげてください。きっと嬉しいと思います」
「好きな女性…」
「そんなこと言われたら勘違いしちゃいますよ」
「あなたは、ひと目みたときから、私の女神です」
「え、趙雲殿」
無双 呉編3
「わたしたちもこの国にきたばかりなんです」
「お姉ちゃんは孫策様、わたしは周喩様と結婚したんだー」
「これで妹ともずっと一緒にいれますし、孫策様も周喩様も優しい方で、幸せです」
「変な動物もいるしね、退屈しないよ」
「周喩殿、お会いしました。すっごく綺麗でびっくりしました」
「孫策様はいま遠征中ですので、お帰りになられたらご挨拶に伺いますわ」
「遠征中ですか…心細くありませんか?」
「ええ、でも、小喬がいますから」
「周喩様がね、神子様と陸遜さまの結婚式を早くみたいっていってたよ。二人はそういう関係なの?」
「よく分からなくて…そうだったのかもしれません」
「まあ、そうですよね、大丈夫です!みんな、一番不安なのは神子様だってわかってます!もし思い出せなくても…ゆっくりまた仲良くなればいいと思います」
「ほら、噂をすれば…」
「なんの噂ですか?」
「ヒミツー」
「ご婦人には敵いませんね…神子の顔色もいいようですね、良かったら散策などいかがですか?」
「散策?」
「ええ、我が国の姫様は珍しい動物を集めていらっしゃいまして、今日はその動物園をご案内できたらなと」
「あ…動物ですか…好きなんです。さっき小喬さんから少し聞いて、行ってみたいなって思ってたんです」
「それは良かった。よろしければ、みんなでいきましょう。姫様は今日はご不在ですが、ご婦人がいらっしゃったほうが神子も心休まるでしょう」
「まあ、素敵ですね。お邪魔させていただきます」
「ほんと、珍しい動物ばっかり!南方の子たちですね」
「ええ、南蛮の国々から贈られたものや、姫様自ら狩ってきたものまで様々です」
「元気な方なんですね」
「ええ、それはおてんばで。きっと神子と気が合いますよ」
「早くお会いしたいです」
「陸遜さん!象がいます!」
「ええ、あれは戦場では馬のかわりに乗ったりもいたしますよ」
「乗れるんですか?」
「ふふふ、乗れますよ。でも私と一緒に乗ってください。心配で仕方がない」
「神子は馬もよく乗っていました。女性とは思えないほど上手で…」
「そうだったんですか?」
「ええ。もう少し元気になったら、馬で城を見渡せる丘にいきましょう。」
「はい」
「では神子、夜は冷えますから、暖かくしてお休みください」
「はい。陸遜さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「…神子は伯言と、お呼び下さい」
「伯言さん?」
「いいえ、ただの伯言と。私も真矢と呼びます」
「僕も今日はとても楽しかった。真矢、また明日会いにきます」
陸遜は驚いてなにも言えない真矢の手をとると、手のひら甲に口付けた。誘うような目。真矢はあたまが逆上せるようにあつくなった。まだ夜は冷えるのに、顔だけが熱い。
「おやすみなさい」
鮮やかに陸遜は去っていった。
「お姉ちゃんは孫策様、わたしは周喩様と結婚したんだー」
「これで妹ともずっと一緒にいれますし、孫策様も周喩様も優しい方で、幸せです」
「変な動物もいるしね、退屈しないよ」
「周喩殿、お会いしました。すっごく綺麗でびっくりしました」
「孫策様はいま遠征中ですので、お帰りになられたらご挨拶に伺いますわ」
「遠征中ですか…心細くありませんか?」
「ええ、でも、小喬がいますから」
「周喩様がね、神子様と陸遜さまの結婚式を早くみたいっていってたよ。二人はそういう関係なの?」
「よく分からなくて…そうだったのかもしれません」
「まあ、そうですよね、大丈夫です!みんな、一番不安なのは神子様だってわかってます!もし思い出せなくても…ゆっくりまた仲良くなればいいと思います」
「ほら、噂をすれば…」
「なんの噂ですか?」
「ヒミツー」
「ご婦人には敵いませんね…神子の顔色もいいようですね、良かったら散策などいかがですか?」
「散策?」
「ええ、我が国の姫様は珍しい動物を集めていらっしゃいまして、今日はその動物園をご案内できたらなと」
「あ…動物ですか…好きなんです。さっき小喬さんから少し聞いて、行ってみたいなって思ってたんです」
「それは良かった。よろしければ、みんなでいきましょう。姫様は今日はご不在ですが、ご婦人がいらっしゃったほうが神子も心休まるでしょう」
「まあ、素敵ですね。お邪魔させていただきます」
「ほんと、珍しい動物ばっかり!南方の子たちですね」
「ええ、南蛮の国々から贈られたものや、姫様自ら狩ってきたものまで様々です」
「元気な方なんですね」
「ええ、それはおてんばで。きっと神子と気が合いますよ」
「早くお会いしたいです」
「陸遜さん!象がいます!」
「ええ、あれは戦場では馬のかわりに乗ったりもいたしますよ」
「乗れるんですか?」
「ふふふ、乗れますよ。でも私と一緒に乗ってください。心配で仕方がない」
「神子は馬もよく乗っていました。女性とは思えないほど上手で…」
「そうだったんですか?」
「ええ。もう少し元気になったら、馬で城を見渡せる丘にいきましょう。」
「はい」
「では神子、夜は冷えますから、暖かくしてお休みください」
「はい。陸遜さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「…神子は伯言と、お呼び下さい」
「伯言さん?」
「いいえ、ただの伯言と。私も真矢と呼びます」
「僕も今日はとても楽しかった。真矢、また明日会いにきます」
陸遜は驚いてなにも言えない真矢の手をとると、手のひら甲に口付けた。誘うような目。真矢はあたまが逆上せるようにあつくなった。まだ夜は冷えるのに、顔だけが熱い。
「おやすみなさい」
鮮やかに陸遜は去っていった。
無双パロ 呉篇2
「お体の調子はいかがですか?」
「陸遜さん」
「傷はきれいに治りましたね。良かった」
「きゃ…」
「あ、申し訳ありません。つい普段のようにしてしまいました。まだ思い出せませんか?」
「はい…ごめんなさい」
「いいえ、神子がここにいてくれるだけで私は満足なんです。記憶が戻らなくても構いません。生きていれば何度でもやり直せます」
「私は、陸遜さんとその、恋人だったんですか?」
「それは…どうでしょう。私の気持ちは伝わっていたのか…」
「え?」
「孫権様がお会いになりたいそうです。お取り次ぎしても構いませんか?」
「偉い方なんですか?」
「はい。この国の君主です」
「あの…なにも思い出せなくて…」
「お優しい方です。私から神子のこともご報告してありますから、安心してください。不安なら、私も同席します」
真矢はひどく頼りなげに着物の裾を掴んだ。この女性が本当にあの戦女神なのか。なんとも弱々しい、ごく普通の女にみえた。陸遜はいつか見た、馬上の真矢を思い出す。必死に、なんの疑いもなく、曹丕のために戦っていた。なんて神々しい女性だろうかと思ったのだ。
突然渦の中に彼女が現れたとき、奇跡がおきたと思った。一目で神子だとわかった。例えようのない興奮で体が震えた。陸遜はこれを幸運を手にした感動と解釈したが、彼はまだ恋を知らなかった。
「神子殿、お加減はいかがか?目が覚めたときいて安心しました」
「あの、わたし、なにも覚えてなくて…孫権さま?失礼があったら、申し訳ありません」
「とんでもない、まだゆっくり休まれてください。女性の寝室に無礼にもお邪魔しているのは私達のほうです」
「ここにいる者達のことは覚えていますか?あなたが今までなにをしていたか」
「いいえ…ごめんなさい」
「…あなたは客人としてこの呉で、過ごしていらっしゃった。この陸遜とは恋仲になり、海戦が終われば祝言をあげる予定でした」
「えっ」
「周喩殿、私は急ぎません。神子の回復が一番ですから」
「そうだな。神子殿、陸遜は私の一番目をかけている部下です。老婆心がすぎました」
「神子殿、城は自由にお使いください。陸遜をできるだけお側においておきます。分からないことは彼に聞いて、はやくお元気を取り戻してくださるよう」
「あ…りがとうございます」
なんだかよく分からない。なにか違和感がある。でも頭がハッキリしなくて、たしかにこの人たちの言うとおりだったような気もする。私は古代中国に召喚されて、好きな人にであって、その人と戦ってきた。その人が陸遜さんなんだろうか。
「さあ皆様、これ以上は神子のからだに障ります。またの機会に」
「神子、お食事はとれそうですか?しばらくなにも食べていませんから、軽いものを用意しています」
「あ、おなか、なっちゃった」
「ふふふ、可愛い人だ。口をあけてください」
「え、自分で食べられます」
「こんなときくらい世話をやかせてください。あなたはなんでも一人でしてしまうんですから」
「わたし、陸遜さんからみて、どんな人でしたか?」
「気高くて、強く、優しい、女神のような女性だと思いました。神に愛されるとはこういう人のことかと」
「すっごく恥ずかしいです…違う人じゃありません?」
「いまも、そのままですよ。はい、食べてください」
「おいしい…」
「厨房に伝えておきます。喜びますよ」
「陸遜さんって、優しいんですね」
「そうですか?」
「周りのかたに気を配るって、簡単そうで難しいな…」
「僕は人をまとめるのも仕事ですから」
「いっぱい食べられましたね。早く元気になれそうです。また夕餉をお持ちしますから、それまで眠ってください」
「だめよ小喬、起こしてしまいます」
「だってお姉ちゃん!私だって神子様とお話ししたいんだもん!」
「え…」
「あ、ほら、起こしちゃって申し訳ありません。私は大喬、こちらは妹の小喬です」
「はじめまして神子様!もう元気になったの?」
「え、ええ、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
「記憶をなくされたとお聞きしました…お気の毒に」
「ほんとに忘れちゃったの?ぜーんぶ?」
「全部じゃないんですけど、ここのことは全く覚えてなくて…ごめんなさい、お二人のことも…」
「大丈夫!わたしたちは初対面だからっ」
「女性が少ないから心細いかもって、陸遜さんがわたしたちに神子様のお話し相手をお願いしてきたの!」
「仲良くしてくださいね。」
「陸遜さん」
「傷はきれいに治りましたね。良かった」
「きゃ…」
「あ、申し訳ありません。つい普段のようにしてしまいました。まだ思い出せませんか?」
「はい…ごめんなさい」
「いいえ、神子がここにいてくれるだけで私は満足なんです。記憶が戻らなくても構いません。生きていれば何度でもやり直せます」
「私は、陸遜さんとその、恋人だったんですか?」
「それは…どうでしょう。私の気持ちは伝わっていたのか…」
「え?」
「孫権様がお会いになりたいそうです。お取り次ぎしても構いませんか?」
「偉い方なんですか?」
「はい。この国の君主です」
「あの…なにも思い出せなくて…」
「お優しい方です。私から神子のこともご報告してありますから、安心してください。不安なら、私も同席します」
真矢はひどく頼りなげに着物の裾を掴んだ。この女性が本当にあの戦女神なのか。なんとも弱々しい、ごく普通の女にみえた。陸遜はいつか見た、馬上の真矢を思い出す。必死に、なんの疑いもなく、曹丕のために戦っていた。なんて神々しい女性だろうかと思ったのだ。
突然渦の中に彼女が現れたとき、奇跡がおきたと思った。一目で神子だとわかった。例えようのない興奮で体が震えた。陸遜はこれを幸運を手にした感動と解釈したが、彼はまだ恋を知らなかった。
「神子殿、お加減はいかがか?目が覚めたときいて安心しました」
「あの、わたし、なにも覚えてなくて…孫権さま?失礼があったら、申し訳ありません」
「とんでもない、まだゆっくり休まれてください。女性の寝室に無礼にもお邪魔しているのは私達のほうです」
「ここにいる者達のことは覚えていますか?あなたが今までなにをしていたか」
「いいえ…ごめんなさい」
「…あなたは客人としてこの呉で、過ごしていらっしゃった。この陸遜とは恋仲になり、海戦が終われば祝言をあげる予定でした」
「えっ」
「周喩殿、私は急ぎません。神子の回復が一番ですから」
「そうだな。神子殿、陸遜は私の一番目をかけている部下です。老婆心がすぎました」
「神子殿、城は自由にお使いください。陸遜をできるだけお側においておきます。分からないことは彼に聞いて、はやくお元気を取り戻してくださるよう」
「あ…りがとうございます」
なんだかよく分からない。なにか違和感がある。でも頭がハッキリしなくて、たしかにこの人たちの言うとおりだったような気もする。私は古代中国に召喚されて、好きな人にであって、その人と戦ってきた。その人が陸遜さんなんだろうか。
「さあ皆様、これ以上は神子のからだに障ります。またの機会に」
「神子、お食事はとれそうですか?しばらくなにも食べていませんから、軽いものを用意しています」
「あ、おなか、なっちゃった」
「ふふふ、可愛い人だ。口をあけてください」
「え、自分で食べられます」
「こんなときくらい世話をやかせてください。あなたはなんでも一人でしてしまうんですから」
「わたし、陸遜さんからみて、どんな人でしたか?」
「気高くて、強く、優しい、女神のような女性だと思いました。神に愛されるとはこういう人のことかと」
「すっごく恥ずかしいです…違う人じゃありません?」
「いまも、そのままですよ。はい、食べてください」
「おいしい…」
「厨房に伝えておきます。喜びますよ」
「陸遜さんって、優しいんですね」
「そうですか?」
「周りのかたに気を配るって、簡単そうで難しいな…」
「僕は人をまとめるのも仕事ですから」
「いっぱい食べられましたね。早く元気になれそうです。また夕餉をお持ちしますから、それまで眠ってください」
「だめよ小喬、起こしてしまいます」
「だってお姉ちゃん!私だって神子様とお話ししたいんだもん!」
「え…」
「あ、ほら、起こしちゃって申し訳ありません。私は大喬、こちらは妹の小喬です」
「はじめまして神子様!もう元気になったの?」
「え、ええ、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
「記憶をなくされたとお聞きしました…お気の毒に」
「ほんとに忘れちゃったの?ぜーんぶ?」
「全部じゃないんですけど、ここのことは全く覚えてなくて…ごめんなさい、お二人のことも…」
「大丈夫!わたしたちは初対面だからっ」
「女性が少ないから心細いかもって、陸遜さんがわたしたちに神子様のお話し相手をお願いしてきたの!」
「仲良くしてくださいね。」
無双パロ 呉篇1
「すごい数の船…」
「真矢、お前は父と共に御座船にいろ。今回、こちらもただでは済まんだろう」
「子桓でもそんなこと言うんだね」
「なんだと?」
「自信バカだと思ってた」
「…喧嘩をうっているのか」
「ごめんごめん」
「とにかく、奴らがなにを企んでいるか分からぬ以上、お前が前線にでるのは許さん。危なくなったら父とともに退け」
「そんな!なにいってるのよ」
「嫌な予感がするのだ。頼むからたまには私の言うことを聞いてくれ」
「…分かった。そんなに言うなら…でも、あんたが危なくなったらたすけに行っちゃうから!まけるなよ!」
「ふっ…まったく気の強い女だ」
「流石は貴方の奥方ですな。お似合いです」
「大人しく守られておればよいものを…」
「さて、儀式は整いました。東南の風は吹きます」
「では、黄蓋殿は工作船にて待機を」
「東南の風…龍脈が動く…」
「諸葛亮殿?」
「暁の神子…真矢殿が元の世界に帰るときです。邪魔者には消えていただきましょう」
「真矢殿が…元の世界に帰る…?」
「成功するかは分かりません。無事には戻れないかもしれませんが、この世界から消えてもらうことはできます」
「そんな、丞相、それでは真矢殿は」
「曹魏の神子は我らの為になりません」
「風向きが変わった?!まさか、この時期に」
「まずい!火計です!早く連環を解くのだ!」
「東南の風だと…真矢は無事か!」
「まさか、諸葛亮の術だと」
「真矢!」
「子桓!助けて!吸い込まれる…!」
「真矢!手を離すな!」
「だめ、あなたまで吸い込まれる!」
「構わん!」
「子桓!」
好き、真矢の唇がそう言ったように見えた。渦に飲み込まれた真矢はそれきり姿を消してしまった。
「真矢!」
「いけません、我々の負けです。落ち延びましょう」
「あれは私の妃だ!」
「貴方が生きなければこれまでの犠牲も無駄になります!」
「っ…父は無事か」
「既に退路へ向かっておいでです。残った者も後を追っております」
「…行くぞ、必ず借りは返す」
「なにか分かったか?」
「いえ、流れ着いた形跡も、ご遺体も見つかりません。諸葛亮の術だとしたら、元の世界に帰されたのかもしれません」
「それはない」
「なぜそう言いきれるのです」
「真矢は私が妃にしたのだ。元の体ではない。あれが、もう帰れないと思うといっていた。仮にも神子だ、わかるのだろう」
「しかし…」
「捜索は続けよ。我々と出会った時のようにどこかへ飛ばされたかも知れぬ」
「間者に探らせましょう。しかし、砂漠で金を探すようなものです。あまり期待はなさりませんよう」
「巡り会うのだ。女神の導きが、きっとある」
「う…ん…」
「目が覚めましたか?暁の神子殿」
「あ…あなた、誰…ここは…」
「怪我をなさっています。まだ動いてはいけません」
「助けてくれた…の?」
「助けた…とは少し違うかもしれませんね。人道的見地から保護させていただきました」
「?」
「私は陸遜伯言。呉の将です」
「呉?どこ?日本じゃないんですか?」
「日本?」
「あれ…なんだっけ、私、そう、昔の中国にタイムスリップして、…暁の神子…私…戦って…あれ…わからない…なんで戦ってたんだっけ…」
「まさか、記憶が?ご自分の名前はわかりますか?」
「名前…名前、橘、真矢」
「ご自分がいままでなにをなさっていたかわかりますか?」
「剣を持ってた…戦ってました…誰と?思い出せない、陸遜さん、私、思い出せない!陸遜さんはわたしのこと知ってるんですよね?!教えてください!」
「落ち着いてください、からだに障ります。お茶をどうぞ…ゆっくり」
「貴女は暁の神子殿で、ずっと私と一緒に戦っていたんですよ」
「あなたと…一緒に?」
「ええ、海戦の途中で海に落ちて、運良く私の船にお助けすることができました。思い出しましたか?」
「…ごめんなさい、思い出せない」
「きっとすぐに思い出しますよ。それより今はまだゆっくり休まれてください。貴女の体が一番大切なんですから」
「…なんだか眠くなってきた…怖い…」
「私が手を握ってますから。安心して眠ってください」
「なに?神子殿が記憶喪失?」
「はい。とても演技には見えませんでした。まだ油断はできませんが、その可能性が高いと思います」
「また厄介な姫さんだな。記憶があればあったで厄介だが、ないならないでどーするんだ陸遜」
「とりあえず、以前から私と一緒に戦っていたことにしておきました。味方としてつかえるならこしたことはないでしょう」
「しかし、暁の神子が曹魏の妃だということは有名な話だぜ」
「曹魏を破った孫呉の戦利品としてでも、暁の女神の加護が孫呉にあり、とでもなんとでもいえるでしょう。曹魏の神子は偽者だったということにしてもいい」
「陸遜、お前腹んなか真っ黒だな」
「いや、それでいい陸遜。神子殿には我々に都合のいい記憶を植え付けるのだ。それでこちらにつけば我々は暁の神子を円満に手に入れられる」
「もし記憶が戻ったり、そもそも演技だったら?」
「そのときは力で従わせるだけだ。天より授かった暁の神子、お互いに気持ちよく付き合えるのが神子殿には一番だろうがな」
「周喩殿、神子殿の件はこのまま私にお任せ頂けませんか」
「わかった。陸遜、お前に任せよう。相手は女性だ。平和的に頼むぞ」
「真矢、お前は父と共に御座船にいろ。今回、こちらもただでは済まんだろう」
「子桓でもそんなこと言うんだね」
「なんだと?」
「自信バカだと思ってた」
「…喧嘩をうっているのか」
「ごめんごめん」
「とにかく、奴らがなにを企んでいるか分からぬ以上、お前が前線にでるのは許さん。危なくなったら父とともに退け」
「そんな!なにいってるのよ」
「嫌な予感がするのだ。頼むからたまには私の言うことを聞いてくれ」
「…分かった。そんなに言うなら…でも、あんたが危なくなったらたすけに行っちゃうから!まけるなよ!」
「ふっ…まったく気の強い女だ」
「流石は貴方の奥方ですな。お似合いです」
「大人しく守られておればよいものを…」
「さて、儀式は整いました。東南の風は吹きます」
「では、黄蓋殿は工作船にて待機を」
「東南の風…龍脈が動く…」
「諸葛亮殿?」
「暁の神子…真矢殿が元の世界に帰るときです。邪魔者には消えていただきましょう」
「真矢殿が…元の世界に帰る…?」
「成功するかは分かりません。無事には戻れないかもしれませんが、この世界から消えてもらうことはできます」
「そんな、丞相、それでは真矢殿は」
「曹魏の神子は我らの為になりません」
「風向きが変わった?!まさか、この時期に」
「まずい!火計です!早く連環を解くのだ!」
「東南の風だと…真矢は無事か!」
「まさか、諸葛亮の術だと」
「真矢!」
「子桓!助けて!吸い込まれる…!」
「真矢!手を離すな!」
「だめ、あなたまで吸い込まれる!」
「構わん!」
「子桓!」
好き、真矢の唇がそう言ったように見えた。渦に飲み込まれた真矢はそれきり姿を消してしまった。
「真矢!」
「いけません、我々の負けです。落ち延びましょう」
「あれは私の妃だ!」
「貴方が生きなければこれまでの犠牲も無駄になります!」
「っ…父は無事か」
「既に退路へ向かっておいでです。残った者も後を追っております」
「…行くぞ、必ず借りは返す」
「なにか分かったか?」
「いえ、流れ着いた形跡も、ご遺体も見つかりません。諸葛亮の術だとしたら、元の世界に帰されたのかもしれません」
「それはない」
「なぜそう言いきれるのです」
「真矢は私が妃にしたのだ。元の体ではない。あれが、もう帰れないと思うといっていた。仮にも神子だ、わかるのだろう」
「しかし…」
「捜索は続けよ。我々と出会った時のようにどこかへ飛ばされたかも知れぬ」
「間者に探らせましょう。しかし、砂漠で金を探すようなものです。あまり期待はなさりませんよう」
「巡り会うのだ。女神の導きが、きっとある」
「う…ん…」
「目が覚めましたか?暁の神子殿」
「あ…あなた、誰…ここは…」
「怪我をなさっています。まだ動いてはいけません」
「助けてくれた…の?」
「助けた…とは少し違うかもしれませんね。人道的見地から保護させていただきました」
「?」
「私は陸遜伯言。呉の将です」
「呉?どこ?日本じゃないんですか?」
「日本?」
「あれ…なんだっけ、私、そう、昔の中国にタイムスリップして、…暁の神子…私…戦って…あれ…わからない…なんで戦ってたんだっけ…」
「まさか、記憶が?ご自分の名前はわかりますか?」
「名前…名前、橘、真矢」
「ご自分がいままでなにをなさっていたかわかりますか?」
「剣を持ってた…戦ってました…誰と?思い出せない、陸遜さん、私、思い出せない!陸遜さんはわたしのこと知ってるんですよね?!教えてください!」
「落ち着いてください、からだに障ります。お茶をどうぞ…ゆっくり」
「貴女は暁の神子殿で、ずっと私と一緒に戦っていたんですよ」
「あなたと…一緒に?」
「ええ、海戦の途中で海に落ちて、運良く私の船にお助けすることができました。思い出しましたか?」
「…ごめんなさい、思い出せない」
「きっとすぐに思い出しますよ。それより今はまだゆっくり休まれてください。貴女の体が一番大切なんですから」
「…なんだか眠くなってきた…怖い…」
「私が手を握ってますから。安心して眠ってください」
「なに?神子殿が記憶喪失?」
「はい。とても演技には見えませんでした。まだ油断はできませんが、その可能性が高いと思います」
「また厄介な姫さんだな。記憶があればあったで厄介だが、ないならないでどーするんだ陸遜」
「とりあえず、以前から私と一緒に戦っていたことにしておきました。味方としてつかえるならこしたことはないでしょう」
「しかし、暁の神子が曹魏の妃だということは有名な話だぜ」
「曹魏を破った孫呉の戦利品としてでも、暁の女神の加護が孫呉にあり、とでもなんとでもいえるでしょう。曹魏の神子は偽者だったということにしてもいい」
「陸遜、お前腹んなか真っ黒だな」
「いや、それでいい陸遜。神子殿には我々に都合のいい記憶を植え付けるのだ。それでこちらにつけば我々は暁の神子を円満に手に入れられる」
「もし記憶が戻ったり、そもそも演技だったら?」
「そのときは力で従わせるだけだ。天より授かった暁の神子、お互いに気持ちよく付き合えるのが神子殿には一番だろうがな」
「周喩殿、神子殿の件はこのまま私にお任せ頂けませんか」
「わかった。陸遜、お前に任せよう。相手は女性だ。平和的に頼むぞ」